こんな映画は見ちゃいけない!

映画ライター・福本ジローによる、ハリウッドの大作から日本映画の小品までスポットを当てる新作映画専門批評サイト。

蘇る玉虫厨子

otello2008-12-01

蘇る玉虫厨子

ポイント ★★★
DATE 08/10/20
THEATER KT
監督 乾弘明
ナンバー 256
出演 三国連太郎
批評 ネタばれ注意! 結末に触れています


玉虫の羽を2ミリ四方に切り、青・緑・赤の色ごとに分ける。それらをモザイク画のように1片ずつ貼り合わせて一枚の絵として完成させていくという気の遠くなるような作業で、1400年前の輝きを取り戻そうとする。しかも国宝であるために実物を精査することはできず、資料と記憶だけで再現させなければならない。それはまるで大昔の職人たちが現代の名工たちに突きつけた挑戦状だ。道具は多少進化しているが電子機器などまったく使えない世界での、経験と指先の技術だけの真剣勝負だ。


平成16年、法隆寺の玉虫厨子展示移動のために解体を機に「玉虫厨子復元プロジェクト」が立ち上がる。日本中から蒔絵師、設計士、宮大工、彫師、塗師らが集められ、詳細な写真や文献を元に製作時と同じものを作る試みがスタートする。


蒔絵師は、ほとんどかすれて見えない現物の壁面に描かれた絵を想像力で補い、極彩色に仕上げていく。台座や屋根を担当する彫師はノミと彫刻刀で木を削っていく。そして塗師は何度も重ね塗りを繰り返す。彼らは細密な部分まで復元していく過程で、当時の技術水準の高さに敬意を払いつつ、それを凌駕するものにしようとする。皆別々の場所でおのおのの担当パーツを製作しているのに、一同に集まったときにはまるで同じ工房で作業をしているかのように作品はぴたりと決まる。おそらくは1/100ミリ単位の精度を要求される仕事、そのプロとしての技術の高さに敬服する。それはまた、職人の技術伝承と新たな技法の発明の場でもあるのだ。


やがて復元した玉虫厨子は法隆寺に納められ、同時進行で新たに製作された「平成の玉虫厨子」と共に出来上がる。プロジェクトのリーダーである宮大工はその仕上がりを見て、オリジナルよりも完成度は高いが、オリジナルの持つ微妙な歪みのほうが人間的な温かみがあるといって、決して満点はつけない。そのあたり、現状で満足してしまっては進歩は望めないという職人のプライドが強く感じられた。

↓その他の上映中作品はこちらから↓