こんな映画は見ちゃいけない!

映画ライター・福本ジローによる、ハリウッドの大作から日本映画の小品までスポットを当てる新作映画専門批評サイト。

懺悔

otello2008-12-11

懺悔


ポイント ★★★
DATE 08/11/19
THEATER 松竹
監督 テンギズ・アブラゼ
ナンバー 282
出演 アフタンディル・マハラゼ/ゼイナブ・ボツバゼ/ケテバン・アブラゼ/エディシェル・ギオルゴビアニ
批評 ネタばれ注意! 結末に触れています


この作品が製作された1984年のソ連といえば、まだゴルバチョフも登場しておらず、レーガン米国大統領から「悪の帝国」呼ばわりされていた時期。軍拡に走り、警察や共産党による市民生活の監視は当たり前で、食糧などの生活必需品の配給を受けるのに数時間も並ばなければならない。日本ではそのような報道が主流だった。しかし、映画の舞台となった当時のグルジアでは少なくとも衣食住は満ち足りている。思想的な窮屈さを我慢すれば案外暮らしやすそうなのが意外だった。


急死したヴァルラム市長の遺体が3日続けて掘り起こされるという事件が起き、ケテヴァンという女が容疑者として逮捕される。裁判で彼女はヴァルラムが自分の両親にした仕打ちを語り、無罪を訴える。


ケテヴァンの回想の中では、いきなり中世の甲冑を身に着けた男が現れ、有無を言わさぬ強権的な態度で彼女の父・サンドロを連行する。彼だけでなく、反政府的とレッテルを貼られたものは皆、甲冑の男たちに連れ去られる。そして、強制労働に付かされた囚人が安否を知らせるために丸太の切り口に名前を刻み、妻子が丸太置き場でその名を探す姿が涙を誘う。だが、引き裂かれた家族は二度と元に戻ることはない。悲しい現実と抽象的なメタファーが入り乱れることで、スターリンの時代を強烈に皮肉っている。


偉大な市長と思われてきたヴァルラムだが、ケテヴァンの証言でそのイメージは地に落ち、そんな男を祖父に持つトルニケは良心の呵責に耐えかねて自殺する。その後ヴァルラムの息子が死体を掘り出して崖から捨ててしまう。明らかにスターリンに対する当てこすり、あまりにも権力を持ちすぎた男の評価が死後に180度変わる。ヴァルラムの最大の失政は宗教を軽く見たこと。聖堂の保護を訴えたサンドロを粛清したことが人びとの記憶に強く残っているのだ。後に老婆によって、ヴァルラムの名がついた通りが教会に通じていないだけで価値がないと斬って捨てられる。社会主義言論の自由は奪えても、心の中までは支配できなかったとこのラストシーンは強く訴えていた。


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