こんな映画は見ちゃいけない!

映画ライター・福本ジローによる、ハリウッドの大作から日本映画の小品までスポットを当てる新作映画専門批評サイト。

チェンジリング

otello2008-12-14

チェンジリング Changeling


ポイント ★★★★
DATE 08/12/12
THEATER FS汐留
監督 クリント・イーストウッド
ナンバー 301
出演 アンジェリーナ・ジョリー/ジョン・マルコヴィッチ/エイミー・ライアン/コルム・フィオーレ
批評 ネタばれ注意! 結末に触れています


悲劇の被害者であるにもかかわらず、より大きなトラブルに巻き込まれてしまうヒロイン。しかし、どれほど困難な状況でもあきらめず、戦い続けることで強くなる。偶然なのか必然なのか、複雑に絡まりあった不幸の糸が彼女をがんじがらめに縛っても、根気よくひとつづつほどいていく。作品のテーマは子供のすり替えから警察の腐敗、さらに警察を告発する市民団体と連続殺人事件へと目まぐるしく変わる。この奇妙な展開は映画が事実に基づいていることに起因するのだが、イーストウッドは丁寧にエピソードをすくい取り、失った子を探し続ける母の愛として見事に昇華している。


シングルマザーのクリスティーンが仕事に出かけている間に息子のウォルターが失踪する。5ヶ月後、警察からウォルターが見つかったという知らせを受け引き取りに行くが、その子は全くの別人。ところが、警察はクリスティーンが精神異常と断定する。


突然姿を消し、杳として消息は知れない。ただ、死んだという確実な証拠がない以上、いつかは再会できると疑わない。北朝鮮に娘を拉致された横田夫妻も同じような胸中なのだろうか。偽ウォルターに感じる違和感や精神病院での絶望感、警察に対する怒りと殺人鬼への憎しみ。頻繁に変化する環境の中でも息子を思う母の思いだけは決してブレない。クリスティーンは自分を抑えて冷静になることが苛酷な運命を克服するために一番必要なものだと学んでいく。かよわい女が気丈な母に変わっていく過程を、アンジェリーナ・ジョリーは気品と気迫のこもった演技で熱演する。


やがて、ウォルターを誘拐した連続殺人鬼は死刑執行直前にクリスティーンを呼び出し、彼を殺していないと告白する。その後、殺人鬼の元から逃げ出した少年の証言でもウォルターも殺されていないと判明する。もはや、憤怒や憎悪といった感情を超越し、わずかな希望を持ち続けることで平静を保っている。生きていると信じることをやめればウォルターは死んでしまう、そんなクリスティーンの痛切な心が最後まで余韻となって胸に突き刺さる。世の中は悪人ばかりでない、多くの人々の善意に救われた気持になる。


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