こんな映画は見ちゃいけない!

映画ライター・福本ジローによる、ハリウッドの大作から日本映画の小品までスポットを当てる新作映画専門批評サイト。

アラトリステ

otello2008-12-15

アラトリステ ALASTRISTE


ポイント ★★
DATE 08/12/13
THEATER THYK
監督 アグスティン・ディアス・ヤネス
ナンバー 302
出演 ヴィゴ・モーテンセン/エドゥアルド・ノリエガ/ウナクス・ウガルデ/ハビエル・カマラ
批評 ネタばれ注意! 結末に触れています


小銃と火種だけは肩から上に持ち上げて胸まで冷たい水につかりながら夜襲に向かったり、トンネルから敵陣に爆弾を投げ込んだり、スケールの大きさを強調するような戦闘シーンとは一線を画し、前線ではいずりまわる兵士の視線で戦争を描くシーンはリアリティにあふれる。古代でも中世でも現代でもない17世紀前半の欧州、甲冑を脱ぎ捨てた軍人はいかに戦ったか。さらに長槍歩兵同士の合戦では硬直した槍衾の下をくぐって短剣で敵を刺すなど、初めて見るような戦い方に目を見張る。しかし、戦場を離れた主人公のエピソードは前後関係を端折ったような急ぎ足の語り口で、元ネタを知らないと因果関係がよくわからない。


フランドルで戦うスペイン軍兵士として戦功をあげたディエゴは、マドリッドに戻って戦死した友人の息子・イニゴを引き取って面倒を見る。ある日、高貴な筋から暗殺の依頼を受けたディエゴは英国人2人組を襲うが命ごいを受け入れる。彼らは英国皇太子と従者だった。


この事件をきっかけにディエゴが大きな陰謀に巻き込まれ、窮地を脱出するために知力と腕力を総動員するのかと思いきや、ただそれで終わり。その後のイニゴとアンヘリカという少女の悲恋もいまいち突っ込みが浅く感情に訴えるものに乏しい。また武に生きる者らしく腕利きの暗殺者との宿命の対決も用意しているが、それも尻すぼみだ。ディエゴとマリアという女優の愛も挿入されるのだが、不幸な結果だけを投げ出すような展開しか用意されていない。


おそらく長大な原作のハイライトシーンだけをつなげたのだろう。物語をあらかじめ知悉していれば何が描かれているのか理解できるだろうが、知らない人間には少しハードルが高かった。ディエゴがベッドで寝ている男に銃を向けるシーンや、ディエゴとマリアがキスを交わすシーンなど、計算された構図とライティングで非常に美しく気品のある映像もあっただけに、映画自体が大河小説のダイジェスト版のようになってしまったのは残念だ。


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