こんな映画は見ちゃいけない!

映画ライター・福本ジローによる、ハリウッドの大作から日本映画の小品までスポットを当てる新作映画専門批評サイト。

ファニーゲームU.S.A.

otello2008-12-16

ファニーゲームU.S.A. FUNNY GAMES U.S.


ポイント ★★★*
DATE 08/10/6
THEATER KT
監督 ミヒャエル・ハネケ
ナンバー 243
出演 ナオミ・ワッツ/ティム・ロス/マイケル・ピット/ブラディ・コーベット
批評 ネタばれ注意! 結末に触れています


好感が違和感にかわり、さらに不安から怒りにまで達したとき、突然の暴力が襲い掛かる。その後は恐怖と絶望、憎悪と苛立ち、疑問と勇気が交互に主人公夫婦の心に浮かび上がり、彼らと同じ感覚を観客は体験させられる。究極の不条理、納得の行かない不快感。どっしりとカメラを据えた長回しのショットを多用して、救いのない状況下に置かれた人間の心理を余すことなく描き切る。端正な外見に秘められた計算された狂気、ほんのわずかな希望すら簡単に打ち砕いていく冷血、幸せな家族が邪悪に翻弄される過程は、見る者のの忍耐を試すかのようだ。


アンとジョージは息子と共に湖畔の別荘に出かけるが、そこにポールというピーターという青年が尋ねてくる。卵の貸し借りでもめているとポールが激怒し、ジョージの足に重傷を負わせる。そして「ゲーム開始」と宣言、ポールとピーターはジョージ一家に難題を突きつけていく。


上流階級の子弟のような雰囲気を持つポールとピーター。彼らの振る舞いや会話からは知性と優雅さすら漂う。表情からは決して悪意は感じられず、微笑を湛えた口元からは上品さがあふれている。見かけとは正反対の残酷さと残虐さ、おそらく隣の別荘も彼らの餌食になっているはずだが、意図や思考法が分らず、ただ囚われの身となった人びとを精神的に追い詰め、いたぶり、気持ちを踏みにじったうえで殺していく。理由の分らなさは極度の緊張を生み、片時もスクリーンから目が離せない。


息子を射殺した後、ポールとピーターはいったん去るが、後に残されたジョージとアンが慟哭した挙句何とか自分たちは助かろうとする様子を5分以上のワンカットで撮る。息子を殺された悲しみから、わずかな脱出のチャンスを逃がすまいと奮闘する姿を克明にとらえることで、夫婦の感情の動きを表現するカメラワークがすばらしい。結局、脱出は失敗、戻ってきたポールとピーターに2人はあっさり殺される。まったく救いのない展開は、確固たる意思を持った悪の存在の前であらためて神の不在を訴えているようだった。


↓その他の上映中作品はこちらから↓