こんな映画は見ちゃいけない!

映画ライター・福本ジローによる、ハリウッドの大作から日本映画の小品までスポットを当てる新作映画専門批評サイト。

悲夢

otello2008-12-17

悲夢


ポイント ★★*
DATE 08/12/15
THEATER 映画美学校
監督 キム・ギドク
ナンバー 303
出演 オダギリジョー/イ・ナヨン/パク・チア/キム・テヒョン
批評 ネタばれ注意! 結末に触れています


別れた恋人が愛おしくてたまらない男の見る夢が、別れた男が憎くてたまらない女の現実となる。肉体は離れているのに、彼らの心はどこかでつながっている。しかし男の幸福が女の不幸となるという事実に、女は傷つき、男はそんな女に責任を感じ眠らないことで償おうとする。最初は訝り罵倒しあいながらも、やがて女は状況を理解する。物語は、愛し合う運命にありながら、生きているうちは結ばれることが叶わない男女が辿る心の変遷を通じて、愛の本質に迫る。状況の説明は一切なく、ただ登場人物の不思議な体験に身を浸すうちに切なさがこみ上げてくるような映像が深い余韻を残す。


交通事故を起こす夢を見たジンは、ランという女が夢と同じ事故を起こしていたと知る。ランに記憶はなく夢遊病状態だったと判明し、その後もジンの夢の中での行動をランがとっているため、ふたりは交代で眠ることにする。


「白黒同色」。正反対に見えるものも、その実体は同じといいたいのだろうか。愛と憎しみ、夢と現実、そして生と死。それらはコインの表裏のように、性質は逆でも分かちがたく、どちらが欠けても存在できない。男と女であるジンとランも同じ精神を共有しているといいたいのだろうか。恋人と別れたという共通点以外は接点がないのに、いつしか魅かれあっていく。このあたり非常に観念的で理解しがたい部分も多いが、交代で眠り、眠くなったときは指や絆創膏でまぶたを開くシーンが切実だ。


やがてジンが人を撲殺する夢を見たときに、ランは元恋人を殴り殺してしまう。逮捕され精神病棟に収容されるラン。ジンはもう二度と寝るまいと彫刻刀で頭を刺し、金槌で足を打つ。傷だらけになったジンが選んだ道は、もう二度と夢を見ないで済むようにと自らの命を絶つこと。彼の死に誘われるように首を吊るランは蝶になってジンの元に羽ばたいていく。愛の切なさと人生のはかなさを象徴するような美しいラストシーンだった。


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