こんな映画は見ちゃいけない!

映画ライター・福本ジローによる、ハリウッドの大作から日本映画の小品までスポットを当てる新作映画専門批評サイト。

プライド

otello2009-01-01

プライド


ポイント ★★★*
DATE 08/12/3
THEATER シネマート
監督 金子修介
ナンバー 293
出演 ステファニー/満島ひかり/渡辺大/及川光博
批評 ネタばれ注意! 結末に触れています


そばにいると反発し、離れていると引かれあう。そんな2人は愛をめぐって憎しみを増幅させながらも、歌を介して才能は認め合っている。どん底から這い上がるためにプライドをかなぐり捨てた女と、育ちのよさから来るプライドゆえに後一歩を踏み出せない女。映画は成功を夢見る2人の歌手をめぐっておどろおどろしいまでの激情がぶつかり合う。それは、少女マンガ的なデフォルメの一方、オペラ歌唱や銀座のクラブといったディテールと絶妙に混ざり合い、美しいメロディの陰に潜む醜い部分を徹底的に描きこむことで独特の魅力を放つ世界を構築している。


貧乏音大生・萌はバイト先でプロのオペラ歌手を目指すお嬢様・史緒と知り合う。萌はオペラのチケットをもらうが、史緒の上流生活に激しく嫉妬する。その後コンクールで2人は再会するが、萌は史緒を動揺させ、留学の切符を手にする。


自らの不幸な環境を憤怒に変える萌の明暗がすさまじい。かつて自分を見下した史緒と同じ階級に属する人々に対して激しい憎悪を燃やし、怨念が乗り移ったようなアリア「復讐の心は地獄のように」で見事な表現力を見せる。銀座のクラブでホステスになっても巧みに表と裏を使い分け、男に見せる顔と同性に見せる一面は正反対という女の恐ろしさを体現する。その過剰なほどの表情の変化を、満島ひかりが分りやすく演じている。


父親の破産で無一文になった史緒は同級生の欄丸の世話になるうちにお互いを意識しあうが、レコード会社の副社長・神野のプロポーズを受けてしまう。彼女の生き方は「歌に生き、愛に生き」そのものだ。そこに萌がまた絡んできて、男をめぐっても壮絶なバトルが繰り広げられる。それでも、なぜかデュエットしているときは完璧なハーモニー。まさしくコインの裏表のような一体感を見せるのだ。このあたりの展開は非常に作り物めいているのだが、会話の端々に女のホンネが全開。銀座のママや萌の母、神野の秘書なども、嫉妬や嘲笑、優越感や劣等感といった感情を惜しげもなくさらけ出し、人間の本当の姿を見せてくれる。萌と史緒が心を裸にしてぶつかり合う激しいテンションは最後まで落ちなかった。


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