こんな映画は見ちゃいけない!

映画ライター・福本ジローによる、ハリウッドの大作から日本映画の小品までスポットを当てる新作映画専門批評サイト。

その男 ヴァン・ダム

otello2009-01-05

その男 ヴァン・ダム JCVD

ポイント ★★★*
DATE 09/1/2
THEATER CRS
監督 マブルク・エル・メクリ
ナンバー 2
出演 ジャン=クロード・ヴァン・ダム/フランソワ・ダミアン/ジネディーヌ・スアレム/カリム・ベルカドラ
批評 ネタばれ注意! 結末に触れています


救出した人質の手を引きながら、銃弾をかわし爆発に乗じて逃げ道を探す男。武装したテロリストを徒手空拳で蹴散らし活路を見出そうとする。しかし、明らかにヒーローの動きにはキレがなく、激しいアクションの連続に息が上がっている。演じているのはジャン・クロード・ヴァン・ダム、寄る歳波には勝てず、長回しのシーンは無理と監督に愚痴っている。映画は彼の落ちぶれた姿にカメラを向け、カネもなく、家族にも見捨てられ、仕事にも恵まれず、それでもプライドだけは高い、かつて一世を風靡した俳優の現状を描く。そこでは現実と虚構が交錯し、奇妙な緊張感とシニカルな笑いが入り交じる。


娘の親権裁判に敗れたヴァン・ダムは故郷のベルギーに帰る。顧問料を振り込むために郵便局に立ち寄るが、いきなりシャッターが閉じられ銃声が聞こえる。ヴァン・ダムは郵便局に立てこもる一方、周囲は警察に封鎖され、ヴァン・ダムとの交渉が始まる。


彩度を落とした無機質な映像は、一度は絶頂を味わったヴァン・ダムのどん底を象徴しているよう。時代に取り残されたとはいえブリュッセルではいまだにスーパースター、ファンの写真に気さくに応じる姿が痛ましい。さらに、ヴァン・ダムを強盗と勘違いしたレポートを鵜呑みにした市民が封鎖戦の外から彼を応援したり、強盗の一人がヴァン・ダムのファンで映画談議に花を咲かせるなど、「腐っても鯛」的な反応が悲哀を感じさせる。


自分が演じてきた役柄ならば強盗団の3〜4人くらい簡単に倒せたはずなのに、郵便局では銃を突き付けられて言いなりになるしかない。最後には強盗の1人をハイキック一閃で倒す、と彼の願望を見せておいて、実際には隙を見て逃げるのがやっと。男は強い男に憧れるものだが、その理想が映画の中の自分だという強烈な皮肉が効いている。今までのキャリアで構築されてきたヴァン・ダム像を自ら壊し、苦悩する弱い己を全面的にさらけ出すことで新しいイメージ作りに挑戦しようとする試みは見事に成功していた。ただ、この作品以後、ヴァン・ダムには「過去の栄光にすがりついているさえないオッサン」役ばかりオファーが来るのではという気がしてならない。。。


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