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映画ライター・福本ジローによる、ハリウッドの大作から日本映画の小品までスポットを当てる新作映画専門批評サイト。

そして、私たちは愛に帰る

otello2009-01-08

そして、私たちは愛に帰る


ポイント ★★★
DATE 09/1/5
THEATER CSG
監督 ファティ・アキン
ナンバー 3
出演 バーキ・ダヴラク/ハンナ・シグラ/ヌルセル・キョセ/トゥンジェル・クルティズ
批評 ネタばれ注意! 結末に触れています


探している人がすぐそばにいるのに、見つかったことに気付かない。ドイツからトルコ、バラバラだった3組の親子の運命が交錯しているのに、当事者たちは見えない壁に隔てられているよう。それでも、彼らの心の中には確かな絆が芽生え始めている。思うようにはならない厳しい生活と、突然の暴力で命を奪われた2人の女。彼女たちの遺族が遺志を継ぐことで新たな希望を見出していく過程を通じて、愛するものがいる人生のすばらしさを描いていく。


アリは一緒に暮らしていた元娼婦のイェテルを殴り殺してしまう。アリの息子ネジャドはイェテルの娘・アイテンの消息を求めトルコに行く。一方、アイテンは反政府活動でドイツに逃れ、ロッテという大学生と知り合う。ロッテはアイテンの過激な生き方に惹かれていく。


EUに加盟して先進国の仲間入りをしたいトルコ、トルコ人を労働力として長年受け入れているドイツ。アリは年金がもらえるほど長期間ドイツに住んでいるのだろう、ネジャドはハンブルクの大学で哲学を教えるほどのインテリになっている。一方のイェテルはまともな仕事もなくアイテンの学費を稼ぐためと割り切って体を売っている。イェテルをカネで囲おうとするアリ。そんなアリを軽蔑する一方、イェテルに同情するネジャド。移民労働者の間でも世代や環境によって厳然とした格差が存在する現実を鋭くあぶり出す。


強制送還され有罪判決を受けたアイテンを救おうとして、ロッテはトルコに渡る。一見、平和そうな街も一歩スラムに入ると治安が悪く、貧富の差が浮かび上がる。そして、教育を受けられないばかりに犯罪に手を染めるしかないストリートチルドレンによって起こされる悲劇。息子に立派な教育を受けさせたアリ、娘に教育を受けさせようと体を張ったイェテル、イェテルの願いをかなえようとアイテンの足跡を追うネジャド、誰もが教育を受けられる社会を実現しようとするアイテン、アイテンを支援するロッテ母娘。映画は教育が人間の暮らしにいかに必要なものであるかを繰り返し問いかける。その問題を解決しない限りトルコという国に未来はないと、ファティ・アキン監督は主張しているのだ。


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