こんな映画は見ちゃいけない!

映画ライター・福本ジローによる、ハリウッドの大作から日本映画の小品までスポットを当てる新作映画専門批評サイト。

チェ 28歳の革命

otello2009-01-12

チェ 28歳の革命 CHE:PART ONE

ポイント ★★★
DATE 09/1/10
THEATER THYK
監督 スティーヴン・ソダーバーグ
ナンバー 6
出演 ベニチオ・デル・トロ/デミアン・ビチル/フランカ・ポテンテ/カタリーナ・サンディノ・モレノ
批評 ネタばれ注意! 結末に触れています


多くの人々の信頼を得、カリスマ的なリーダに必要なものは何なのか。常に弱者への思いやりを忘れない一方で、不屈の闘志と揺るがぬ信念で最前線に立つ。そして決して銃弾に当たらない強運。映画は、喘息の持病を持ち貧弱な装備から戦い抜き、富の再分配、圧政の打倒などの過程で、私利私欲に走らなかったからこそ現代の神話となった主人公の高潔な生き方を描く。あくまで実話にこだわったエピソードとリアリティを追求した映像は感情が抑制された苦難の道の連続であるが、革命の理想に燃える彼の姿は永遠に色あせない輝きを放つ。


メキシコでカストロと知り合ったゲバラは武装してキューバに密航、革命の狼煙を上げる。政府軍の駐屯地を次々と攻め落とすうちに志願者が増え、他の反政府勢力と合流、やがてキューバ中部の都市サンタクララ攻防戦が始まる。


'64年の国連スピーチを時折挟み込んで、ジャングルのゲリラ戦シーンではほとんど語られないゲバラの理念が明らかになっていく。彼の思想は時を超え、経済のグローバル化で新たな格差と貧困を生んだ21世紀の世界を批判しているかのよう。モノクロのフィルムはアーカイブを忠実になぞったものなのだろう、当時の雰囲気を非常によく伝えている。独力で革命を成し遂げたことに対する旧東側代表の少し距離を置いた態度が印象的だ。インタビューでも水を得た魚のごとく言葉を操るゲバラはスポークスマンとしても優秀だったとうかがえる。


カストロをはじめ彼を知る人間がまだ多数生存している現状では思い切った創作は無理なのか、物語は具体的であるが意外性はない。それでも土地を奪われた農民の話に耳を傾けたり、軍規を破った脱走兵を射殺するなど、優しさと厳しさを併せ持つゲバラの一面は垣間見える。なにより部下が戦利品として政府軍兵士から分捕ったオープンカーをわざわざ返却に行かせるラストは、権力を握っても腐敗しなかった唯一の社会主義製政権の原点を見る思いだった。


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