こんな映画は見ちゃいけない!

映画ライター・福本ジローによる、ハリウッドの大作から日本映画の小品までスポットを当てる新作映画専門批評サイト。

ワルキューレ

otello2009-01-21

ワルキューレ VALKYRIE


ポイント ★★★★
DATE 09/1/15
THEATER THRP
監督 ブライアン・シンガー
ナンバー 12
出演 トム・クルーズ/ケネス・ブラナー/ビル・ナイ/トム・ウィルキンソン
批評 ネタばれ注意! 結末に触れています


忠誠を誓い命を捧げるべき相手はヒトラーではなく祖国。ナチス政権下、思想的背景の違いからヒトラーと距離を置いた男たちは、ドイツの良心を世界に示そうとする。ホロコーストや民間人虐殺などの戦争犯罪行為を憎み、騎士道に通じる理性や道徳を重んじる軍人としてのプライドを持つドイツ人は少なくなく、東部戦線での苦戦がさらに同調者を増やしていく。映画は史実を忠実になぞり、ヒトラー暗殺・クーデターの全貌を明らかにする。正義に殉じた人間はたとえ敗れても後世に名を残すのだ。


アフリカ戦線で負傷したシュタウフェンベルク大佐は反ナチスの将校グループに誘われ、ヒトラー死後の政権を速やかに掌握するため「ワルキューレ作戦」を利用する計画を立案、暗殺実行役を任される。そして作戦会議の日、シュタウフェンベルクは爆弾を会議室に持ち込む。


いかにヒトラーの近くで爆弾を爆発させて生還するかがこの作戦のポイント。検問を通過し、起爆装置を作動させ、逃げる。その間、手が震えて爆弾をうまくカバンに戻せなかったりするが、必死で平静を装うシュタウフェンベルクの感情をこわばった口元だけで表現するトム・クルーズが見事だ。派手な演出はなく物語は時系列に沿って淡々と進んでいくが、映像には緊張感がみなぎり、後戻りできない選択をした男たちのギリギリの心理状態がリアルに描かれる。反乱軍にいながら優柔不断な者、事実関係がはっきりするまで傍観する者、自分の関与の証拠をもみ消そうとする者、さまざまな人間の姿が赤裸々に語られるが、底辺に流れるのは圧倒的な事実の重みだ。


自爆テロという発想がないなか、爆発時には脱出していなければならないためにヒトラーの死を確認しないままワルキューレ作戦が発動される。煮え切らない上層部に代わりシュタウフェンベルクが指揮を執りベルリンを一時的に制圧するが、ヒトラー生存の報が流れ作戦は頓挫する。ほんの数時間だけ味わった希望とすぐにやってきた絶望。それでも、最後まで揺るぎない信念を捨てない男たちは美しかった。



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