こんな映画は見ちゃいけない!

映画ライター・福本ジローによる、ハリウッドの大作から日本映画の小品までスポットを当てる新作映画専門批評サイト。

フロスト×ニクソン

otello2009-01-31

フロスト×ニクソン FROST/NIXON


ポイント ★★★★
DATE 09/1/28
THEATER THTW
監督 ロン・ハワード
ナンバー 23
出演 フランク・ランジェラ/マイケル・シーン/ケヴィン・ベーコン/レベッカ・ホール
批評 ネタばれ注意! 結末に触れています


テレビでのインタビューを決闘の場と位置づけ、相手を言葉だけを武器に完膚なきまでに叩き潰そうとする圧倒的な緊張感は片時も目を離せない。辞任した唯一の米国指導者、だが、大統領としてはサイテーでも政治の世界を生き抜いた弁舌はTVの人気司会者など寄せ付けず、核心を突く質問には巧みに論点をすり替えて自己宣伝に変換してしまうなどお手のものだ。さらに、本番前の囁きや深夜の電話など陽動作戦にも抜かりない。相手の本音を引き出す駆け引きは手に汗握るほどスリリング。映画は、伝説となったニクソンのインタビューを忠実になぞることで、真実が人を自由にすることを物語る。


ウォーターゲート事件をうやむやにしたまま引退したニクソンに、人気司会者フロストがインタビューを申し込む。紆余曲折の後、収録本番に臨むが、ニクソンは決して政策の非を認めるような発言をせず、外交面での成果ばかりを強調する。


繰り返されるニクソンとフロストのクローズアップ。彼らの精神状態がわずかな筋肉の動きに反映される。インタビュー初日、フロストがいきなりウォーターゲート事件について切り込んでもニクソンは動じず、逆に自分の行為がどれほど後世の役に立つかをとうとうと語り、謝罪を引き出そうとしたフロストを打ちのめす。その上、ベトナム戦争、中ソとのデタントといったタフな交渉で鍛えたしたたかさとずうずうしさで完全にニクソンは優位に立つ。これぞまさに政治家という滑らかな語り口は聞きほれるほどだ。


劣勢の中、最後にフロストは決定的な証拠を突きつけ「国益のためには非合法行為も許される」という言葉を引き出し、ニクソンを嘘と欺瞞で固めた人生から解放してやる。その瞬間に見せた苦悩と後悔、自己嫌悪に満ちたニクソンの苦虫を噛み潰したような顔は、彼にも残っていた良心の痛みの表れ。そして「国民を失望させた」と侘びることで、ついに彼も肩の荷を降ろしたような安堵した表情を見せるのだ。その繊細な感情の揺れをフランク・ランジェラが迫真の演技で完璧に再現していた。


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