こんな映画は見ちゃいけない!

映画ライター・福本ジローによる、ハリウッドの大作から日本映画の小品までスポットを当てる新作映画専門批評サイト。

ベンジャミン・バトン 数奇な人生

otello2009-02-10

ベンジャミン・バトン 数奇な人生
The Curious Case of Benjamin Button


ポイント ★★★*
DATE 09/2/7
THEATER THYK
監督 デヴィッド・フィンチャー
ナンバー 33
出演 ブラッド・ピット/ケイト・ブランシェット/ティルダ・スウィントン
批評 ネタばれ注意! 結末に触れています


輝くような美しさを誇り不可能はないと根拠もなく思いこんでいた20代のころとは違い、30歳を過ぎると確実に身体の衰えはごまかしきれなくなる。一方で愛する男は時とともに肌の張りや艶を取り戻し、生気が蘇る。顔のしわが増え体のシミがとれなくなっていくのに、相手からは消えていく。年々開いていく自分との見た目の年齢差を実感し、劣等感すら覚えていく妻の気持ちがとてもリアルだ。逆に若返る運命を受け入れる主人公は達観した雰囲気をまとい、精神と肉体のアンバランスに何とか折り合いをつけようとする姿勢は悲しみさえ漂わせる。3時間近い長尺ながらメリハリあるエピソードで最後まであきさせない演出力が光る。


80歳の老人のような体で生まれてきた赤ちゃんは老人ホーム捨てられるが、介護士のクイニーはベンジャミンと名付けて育てる。成長とともに関節炎や白内障という加齢性の疾患が治り、次第に自立できるようになる。そんなときデイジーという少女と出会い、ベンジャミンは恋に落ちる。


好奇心がいっぱいの子供時代は車椅子で過ごし、初めてホームの外に出られたのは12歳のとき。その後、娼館に連れて行かれたときの絶倫ぶりや17歳でホームを出たときには船員として働けるまでに体力が回復している。若者の楽しみを通り越して一気に大人の愉しみを知るベンジャミンは生き急いでいるようにも見えた。彼の人生のクライマックスはやっと外見と実年齢が一致した40代の数年。紆余曲折の末デイジーと結ばれ、失われた時間を穴埋めするように昼夜を問わずセックスに励む。


しかし、子供が生まれた幸せの絶頂期に彼は妻子のもとを去る。これから20代10代と少年化していくのがデイジーや愛娘が耐えられないと判断したからだ。普通の幸福が得られないのは昔から分っていている。それでも子供の父と名乗れない辛さのおかげで、せっかく健康な体を手に入れたのに心は満たされない。さらに少年の姿になったベンジャミンは認知証になり、ホームに戻ってくる。そしてとうとう赤ちゃんにまで退行しデイジーの腕の中で息を引き取るという満ち足りた最期。愛する人と帰るべき家、どんなに奇妙な道を歩んでも、結局人生に必要なのはこのふたつだということをこの映画は教えてくれる。


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