こんな映画は見ちゃいけない!

映画ライター・福本ジローによる、ハリウッドの大作から日本映画の小品までスポットを当てる新作映画専門批評サイト。

余命

otello2009-02-13

余命


ポイント ★★
DATE 09/2/11
THEATER 109KH
監督 生野慈朗
ナンバー 36
出演 松雪泰子/椎名桔平/奥貫薫/市川実和子
批評 ネタばれ注意! 結末に触れています


結婚10年目にしてやっと授かった小さな命、しかし同時に以前患った乳がんが再発する。子供を捨て治療に専念するか、子供が生まれるまで治療を先延ばしにするか。ヒロインは己の延命より、生きた証を残す道を選ぶ。ところが彼女は難問を一人で抱え込み、愛する夫の気持ちを慮るあまり事実を口にしないばかりか、心配してくれる友人たちの心遣いもつい踏みにじってしまう。そのあたりの葛藤がどこかから回りしていて、これほど大事なことを相談できないとはどういうことなのだろうという疑問がわく。事は自分だけの問題ではない、周囲の人間に援助を頼めばもっと明るい展望が開けたはずだ。


外科医の滴(しずく)は妊娠に気付くが、直後にすでに切除した右乳房跡にしこりを発見する。赤ちゃんを楽しみにする夫にがんを言い出せないまま、夫を離島の仕事に追いやった滴は、病院も辞めてひとりで出産する決意を固める。


ハーレーを駆り勤務先の病院に出勤する滴は38歳のとは思えないほどの颯爽とした雰囲気で、そのまま夜勤や手術などもこなすやり手医師。夫は元医師のカメラマンでいまだ半人前。彼ら夫婦の生活感のなさが映画からリアリティを奪っている。さらに滴役の松雪泰子が病や妊娠といった心身の変化を演じきっておらず、まったく病人にも妊婦にも見えないのが致命的。もちろん外科医らしくもなかった。


がんの進行にもかかわらず無事男子を出産した滴はその後もだれの助けも請わず、なぜか自宅にこもって一人で子育てをする。当然病身に新生児の世話が完全にできるわけもなく、様子を身に来た親友にしぶしぶドアを開くという有様。普通に考えれば誰か頼りになる人間に連絡を取るとか、医師として働いていたコネを使って母子共に入院できるような手段を考えるはずだ。結局、滴は2年程度の余命を故郷の奄美で夫・息子と共に過ごし全うする。苦労の末に手にした女としての幸せを実感するシーンが印象に残るだけだった。


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