こんな映画は見ちゃいけない!

映画ライター・福本ジローによる、ハリウッドの大作から日本映画の小品までスポットを当てる新作映画専門批評サイト。

ラ・ボエーム

otello2009-02-18

ラ・ボエーム LA BOHEME


ポイント ★★
DATE 09/2/16
THEATER TTS
監督 ロバート・ドーンヘルム
ナンバー 40
出演 アンナ・ネトレプコ/ローランド・ビリャソン/ニコル・キャベル/ジョージ・フォン・バーゲン
批評 ネタばれ注意! 結末に触れています


オペラには映画化しても楽しめるものとそうでないものがあるが、パリの若きアーティストとお針子の恋というスケールの小さいこの作品は劇的な展開に欠け、ストーリーも凡庸。同じプッチーニの作ならば、「トスカ」は激情ほとばしる作品に、「トゥーランドット」はイマジネーションを大胆に刺激する作品に仕上がったはず。アンナ・ネトレプコ、ローランド・ビリャソンという当代きってのゴールデンカップルも、確かに歌声はすばらしいがクローズアップに耐えうるほどの美形ではないのが残念だ。


19世紀パリ、屋根裏部屋に暮らす詩人のドロルフォと画家のマルチェロは、クリスマスというのに暖炉で燃やす薪にも不自由している。マルチェロがカネを手に入れた仲間と街に繰り出すがロドルフォは部屋に残り、そこにミミという娘が訪ねてくる。2人はたちまち恋に落ちる。


1幕と4幕は屋根裏部屋が舞台で背景が必然的に単調となり、登場人物が歌う姿をとらえるカメラの動きに制限があるのか、大胆な構図が取られない。たとえば家賃を請求に来た家主の浮気話を映像化するなどすれば少しはアクセントがついただろう。2幕のクリスマスに沸く街やレストランのシーンは唯一動きを出せる場面なのに、ここでもリアリズムにこだわるあまりワクワク感が伝わってこない。3幕の悲しい別れに至っては、ただ雪の中で歌っているだけで、カメラワークも編集も見せる工夫に乏しい。


結局、冒頭のモノクロームで描かれたパリの石畳と、息絶えたミミを俯瞰でとらえるラストシーンのみが映画的な演出で、他のシーンはオペラの表層をなぞるに終始している。それでも退屈せずに過ごせたのは、余情たっぷりの音楽と愛の喜びとはかなさを朗々と歌い上げる高音に聞きほれたから。やはりこれは「ラ・ボエーム」というオペラを見たことがない初心者への入門編としてか、ネトレプコとビリャソンのコンビをライブで見られないファンに向けて作られた作品。映画として考えると物足りなさは否めなかった。


↓その他上映中の作品はこちらから↓