こんな映画は見ちゃいけない!

映画ライター・福本ジローによる、ハリウッドの大作から日本映画の小品までスポットを当てる新作映画専門批評サイト。

釣りキチ三平

otello2009-03-24

釣りキチ三平


ポイント ★★*
DATE 09/3/21
THEATER THYK
監督 滝田洋二郎
ナンバー 68
出演 須賀健太/塚本高史/香椎由宇/渡瀬恒彦
批評 ネタばれ注意! 結末に触れています


人里に近い清流から山深い渓流まで、そこに魚がいると聞けば出かけて釣り糸を垂れる。そんな釣りの魔力に憑りつかれた老人と孫。都会での、成功や便利さと引き換えに他人との競争に勝たなければならない生活を送る孫の姉には、取り残された過去の遺物のように見える。しかし、物質的な豊かさに対して「幸せか」と問われたとき、彼女は言葉に窮してしまう。自然の営みに逆らわず、魚を釣り、釣った魚を食べることに無上の喜びを感じる主人公の少年の単純な思考回路がうらやましい。好きなことをして過ごす、これが人間らしい生き方ではないだろうか。


アユ釣り大会で優勝した三平は鮎川というプロの釣り師と出会う。鮎川は伝説の巨大魚が住む夜泣谷を探していたが、三平の姉・愛子が帰省してきたことから三平の祖父・一平のガイドで夜泣谷を目指すことになる。


釣りとは何ぞやという問いかけに「ただのくだらない遊び」と答える。だからこそカネや名誉を求めずに純粋かつ真剣に三平は魚に向かい合うことができる。一方で鮎川はトーナメントで勝つことを義務付けられているプロ。一平も釣り竿師として生計を立てている。三平の、まだ損得勘定のない釣りへの偏愛がこの作品のテーマで、釣り人生への屈折した思いや釣りを憎む気持ちといった複雑な感情をすべて大人に背負わせているところがすっきりと整理されていてわかりやすい。ただ、三平は最初から天才で、技術を習得するための修行や祖父に奥義を追い求めるようなことはせず、物語を通じて彼の成長がほとんど描かれていないのところに不満が残る。


友釣り、フライ、ルアーといった様々なテクニックを見せてくれるのだが、これらのシーンも、釣り人が竿を操る美しさがまったく無視され、三平たちは騒いでいるばかり。夜泣谷の森閑とした闇の深さや、見上げた星空の輝きは、いまだ日本に残る秘境を強烈に印象付けてくれたが、せっかく見つけた伝説の巨大魚に三平が馬乗りになってしまうオチには興醒めした。それまで釣った獲物を容赦なく食料にしていたのだから、この巨大魚も放流せずに丸焼きにしてほしかった。


↓メルマガ登録はこちらから↓