こんな映画は見ちゃいけない!

映画ライター・福本ジローによる、ハリウッドの大作から日本映画の小品までスポットを当てる新作映画専門批評サイト。

伯爵夫人

otello2009-03-31

伯爵夫人 LA COMTESSE

ポイント ★★
DATE 09/3/9
THEATER EI
監督 ジュリー・デルピー
ナンバー 54
出演 ジュリー・デルピー/ダニエル・ブリュール/ウィリアム・ハート
批評 ネタばれ注意! 結末に触れています


恋した女は美しくありたいと願うもの。まして相手が17歳も年下の若者ならば、自分の容色に劣等感を抱き、少しでも輝きを取り戻そうとする。愛されることを知らずに生きてきたヒロインが運命の男と出合ったとき、思いはやがて燃え盛る炎となり、欲望は情念と化す。禁じられ、裏切られ、会えない時間が長くなるほど美貌の衰えに過剰反応し、ついには処女の生き血が若返りの特効薬と信じる殺人鬼となる。物語は異教徒との戦乱に明け暮れる中世東欧の血と残虐のイメージをモチーフに前面に出し、愛ゆえに狂気に走った女の生涯を描く。


ハンガリーの貴族の娘・エリザベスはバートリ伯爵夫人となり、急死した夫に代わり荘園経営に励む。ある日、ウィーンの舞踏会でイシュトバンという若い貴族と出会い、その日のうちにベッドを共にする。ふたりは密会を続けるが、イシュトバンの父に仲を引き裂かれる。


「愛とは農民と処女が暇つぶしに語るもの」というイシュトバンの父の言葉通り、当時の貴族にとって結婚とはすなわち家の財産を増やすために行うもの。イシュトバンが一時年上の未亡人に熱を上げるのを見事にいさめている。しかし、年齢的な釣り合いを考えなければ、ふたりを結婚させたほうがバートリ家の財産を奪いやすかったのではないだろうか。


エリザベスは、殴打した侍女の血を顔に受けた時に、拭うと下まぶたに張りが出ると感じたことから、領内の少女を攫ってはその血を素肌に浴びるようになる。だが、それらのシーンでは処刑具がちらりと映されるだけで、具体的な血抜きは省略される。いけにえになる少女の恐怖や、滴る血を浴びながら若返りの喜びに浸るエリザベスの鬼気迫る姿を見せてこそホラーの中に美学が見出せるというものなのに、そこを省略し、ただ無残に命を奪われた少女の遺体だけを見せても不快なだけだ。冒頭で「歴史は勝者が作るもの」といっているのだから、死刑宣告した者は彼女をもっと残忍で怖ろしい人物として記録し、映画はそれを元にエリザベスを再現してもよかったはず。彼女の人物像を掘り下げかたが決定的に不足していた。


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