こんな映画は見ちゃいけない!

映画ライター・福本ジローによる、ハリウッドの大作から日本映画の小品までスポットを当てる新作映画専門批評サイト。

スラムドッグ$ミリオネア

otello2009-04-20

スラムドッグ$ミリオネア SLUMDOG MILLIONAIRE

ポイント ★★★
DATE 09/4/18
THEATER THYK
監督 ダニー・ボイル
ナンバー 91
出演 デヴ・パテル/フリーダ・ピント/マドゥール・ミッタル/イルファン・カーン
批評 ネタばれ注意! 結末に触れています


運命、それは必然がもたらすものであって、その答えは記憶を振り返れば必ずどこかに隠れている。クイズの正解も結ばれるべき女性も、過去のあらゆる場面にすでに組み込まれているのだ。恐るべき貧しさの中で生まれ育った少年は、見たこと聞いたこと感じたことをすべて覚えているだけでなく、意識せずとも目にした光景や耳にした情報を確実にインプットし保存できる驚異的な頭脳の持ち主。次々と出題されるクイズに対し、彼の思い出が解答を導いていく。ただ、最高額2000万ルピーの問題が「三銃士」の名前当てとは、あまりにも易しすぎて拍子抜けした。


クイズ番組で最終問題まで勝ち残ったジャマールは、詐欺の疑いで警察に拘束される。教育を受けていないジャマールがいかにして難問をクリアしたか、スラムで育ち孤児となった後、生きるために経験した筆舌に尽くしがたい半生を語り出す。


ゴミを漁って糧を得るような最下層の暮らしの中でも、ジャマールはその境遇を楽しむかのようにたくましく生き抜く。頭のいい彼にとって、世の中は多くの貧困層が苦労しているほど辛いものではなかったはず。警備員や異教徒、ギャングにに追われ狭い路地や線路を駆け抜けるジャマールの姿は、身の危険から逃げると同時に、夢に向かって走っているようだった。また、タージマハールではいつの間にか英語を身に付け、観光客相手に稼ぐようにまでなるほど適応力も高い。彼の読書や勉学はあえて描かれないが、IQの高さは後に学生に茶を配るシーンでも披露され、これが天才の物語であると印象付ける。


ジャマールは、このクイズ番組レベルの雑学は出場しても勝算がある上、探している恋人に自分の存在をアピールできると考える。そんな彼に立ちはだかる司会者が憎たらしいほどに秀逸。身分制度の名残か、カースト外のジャマールに明らかな嫌悪感を示し、カメラが回っていないところでは彼を罵倒し、偽答で失格を謀るばかりか無実の彼を警察に通報する。再開発で変わりゆくムンバイの街とは対照的に、人々の心から差別を取り除き近代化するにはまだまだ時間がかかるということを、この司会者の態度は予感させた。


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