こんな映画は見ちゃいけない!

映画ライター・福本ジローによる、ハリウッドの大作から日本映画の小品までスポットを当てる新作映画専門批評サイト。

築城せよ!

otello2009-05-04

築城せよ!


ポイント ★★*
DATE 09/4/30
THEATER KT
監督 古波津陽
ナンバー 102
出演 片岡愛之助/海老瀬はな/江守徹/阿藤快
批評 ネタばれ注意! 結末に触れています


昇りかけた朝日を反射して黄金に輝く天守閣。それが美しいのは石垣の上に建てられた威容から来るのではなく、築城に手を貸した市民・学生・武将たちの夢を乗せているから。すぐに壊れてしまうと分かっていても、みんなで力を合せ段ボールの城を完成させるという目標に向かって突き進む、大変だけれど楽しいお祭り騒ぎ。その過程で意見が分かれていた小さな街も、自分たちが本当に大切なものは何かに気づき、指導者たちも住民の意見を無視してまで事業を推進することに疑問を感じ始める。上から目線の利益誘導に頼るだけでなく、納税者が積極的に参加できる街おこしが、さびれた街に活気を取り戻す秘訣だ。


城跡の調査中に三人の男が古井戸に落ちる。彼らに戦国武将の恩大寺と部下の霊が乗り移って復活、恩大寺は発掘現場の作業員に築城を命じる。工大生のナツキは棟梁に指名され、段ボールで天守閣を作ろうと計画する。


壁や屋根だけでなく、柱や梁まですべて段ボール製。細長く切った段ボールを格子に編んで強度を高め、何枚も重ねたうえに切り込みを入れて組み立てる。接着剤とガムテープで補強し、建物の外観が出来上がってゆく様は壮観だ。さらに丸めた段ボールを縦に割って瓦にしたり、屋根の上の鯱鉾までつくる念の入れよう。各家庭に余っている段ボールを集めることから始め、老人の知恵を借り、大学生は最新の知識を駆使しアイデアを出し合う。職人たちも初めての仕事に目を輝かせ、命令するだけだった殿様もいつしか一緒に汗を流している。その参加者の一体感こそが、こ
の街に一番欠けていたものなのだ。


地元の人々を観客として意識したのだろうか、前半はテンポにかける演出で笑えないセンスのギャグが続出する。しかし、ボンクラ職員が武将となって復活してからは緊張感が漲る。特に謡を口にし扇を手に舞うシーンや、墨彩で障子にカラスを描く場面など、この役を演じた片岡愛之助の歌舞伎役者としての所作やたたずまいがスパイスになって大いに物語を引き締めていた。この作品の真の目的「映画作りを通じての街おこし」は一応の成功を収めている。


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