こんな映画は見ちゃいけない!

映画ライター・福本ジローによる、ハリウッドの大作から日本映画の小品までスポットを当てる新作映画専門批評サイト。

チェイサー

otello2009-05-08

チェイサー


ポイント ★★
DATE 09/5/5
THEATER 109GM
監督 ナ・ホンジン
ナンバー 106
出演 キム・ユンソク/ハ・ジョンウ/ソ・ヨンヒ
批評 ネタばれ注意! 結末に触れています


連続猟奇殺人犯を逮捕したのに信じてもらえない元刑事。犯行を自白し、生存者がいるとをほのめかしているのも関わらず証拠不十分で犯人を釈放してしまう警察。せっかく犯人のアジトから脱出したのに、またあっさりと犯人の手に落ちてしまう被害者。自分の行動は正直に話すくせに、動機は語ろうとしない犯人。目まぐるしく変わる展開はまるで落とし穴を掘るかのごとく見る者の予想を裏切り、気がついた時には闇の深淵に落とされている。そのもどかしさは極限まで不快感を刺激し、緊迫感あふれる追っかけと凄惨な暴力が、物語の救いのなさを加速させる。


デリヘル嬢が相次いで失踪し、元締めのジュンホは携帯番号からヨンミンという男を捕まえる。ヨンミンは警察で犯行を自供するが、物証はない。だが、ジュンホはヨンミンの証言からデリヘル嬢の1人・ミジンが死んでいないと確信、彼女を探し始める。


観客は、ヨンミンが犯人であるのは分かっている、ミジンが生きていて助けを求めていることも知っている。にもかかわらずヨンミンは野放しにされ、ミジンの希望を奪う。映画はジュンホの、時に一線を越えた独自調査の過程で、徐々に事件の謎を解いていくという体裁はとらずに、ただ良心の麻痺したヨンミンのまったく理解の及ばない足跡をたどる。それでも、ヨンミンが何を考えどんな目的で女たちを殺していたか最後まで不明。ジュンホが走れば走るほど迷宮の奥深くでクモの巣にからめとられるような絶望感に襲われるのだ。


デリヘル嬢という、急に姿を消しても誰も不思議に思わず、雇う側も警察に届けづらい女を獲物に選んでいるところをみると、ヨンミンは高い知能を持ちながらも血への渇望が抑えきれないのだろう。一方で、大量殺人を告白し逃げようともしないのは、自らの凶行を誰かに止めてもらいたいようでもある。その矛盾した心理が警察のプロファイリングの裏をかいたのか。ホラーとミステリー、バイオレンスと愛といった要素をごちゃまぜにしたこの作品、結局、ヨンミンの得体のしれない不気味さがすべてを相殺している。


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