こんな映画は見ちゃいけない!

映画ライター・福本ジローによる、ハリウッドの大作から日本映画の小品までスポットを当てる新作映画専門批評サイト。

愛を読むひと THE READER

otello2009-05-16

愛を読むひと THE READER

ポイント ★★★★
DATE 09/5/12
THEATER SG
監督 スティーヴン・ダルドリー
ナンバー 111
出演 ケイト・ウィンスレット/レイフ・ファインズ/デヴィッド・クロス/アレクサンドラ・マリア・ララ/ブルーノ・ガンツ
批評 ネタばれ注意! 結末に触れています


女は真実を犠牲にしてまで自分の秘密を守り通そうとした。その秘密と彼女の決意を知ってしまった男は彼女を助けられず、距離を置いて見守るだけ。女と男の繊細な感情のうねりが、朗読を録音したテープと拙い文字で書かれた短い手紙に凝縮される。そして、ふたりの人生だけでなく、ナチス戦犯側から見たホロコーストの実態に迫る。誠実に生きたにもかかわらず、結果的に辛い日々を送る羽目になったヒロインの姿を通じて、運命の残酷さと、思いを届けようとする行為が人間に希望をもたらすことを物語る。


ハンナという女性と知り合った15歳のマイケルは、彼女と毎日ベッドを共にするというひと夏を送る。数年後、法学生となったマイケルはナチス戦犯の裁判で被告席に座るハンナを見つける。彼女は300人のユダヤ人を死なせた罪に問われていた。


年上の女との強烈な記憶はマイケルの心に大きな傷を残したはず。家族や友人にもいえない情事、ベッドでの朗読、突然の裏切り。そして法廷で、ハンナの過去と秘密を守りぬく決心に衝撃を受ける一方、強制収容所を見学して彼女の罪深さを認識する。衝動に走るには大人になりすぎ、気持ちを整理するには若すぎる、そんなマイケルの苦悩に満ちた青年時代の葛藤は、切なさに胸をかきむしられるようだ。


マイケルは獄中のハンナに朗読テープを送り続け、読み書きができないことを他人に明かしていないと暗に示す。ばれるくらいなら無期懲役を受け入れたほうがマシというハンナの心を慮ったのだろう。後にマイケルは遺言に従って、ホロコースト生存者の作家にハンナの遺品を届けると共に、彼女が文盲であった事実を告げる。しかし、作家はまったく心を動かされた様子はなく、冷たい態度を崩さない。家族や同胞を虐殺された作家にとって、元SS隊員の冤罪など取るに足らない些事であるかのごとく。ハンナの墓参に赴くラスト、マイケルはやっとハンナの秘密という重荷を肩から降ろす。胸のうちを娘に語ることで、自らをハンナから解放するようだった。。。


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