こんな映画は見ちゃいけない!

映画ライター・福本ジローによる、ハリウッドの大作から日本映画の小品までスポットを当てる新作映画専門批評サイト。

ブッシュ

otello2009-05-19

ブッシュ W.

ポイント ★★★*
DATE 09/5/16
THEATER 109KW
監督 オリバー・ストーン
ナンバー 115
出演 ジョシュ・ブローリン/エリザベス・バンクス/エレン・バースティン/ジェームズ・クロムウェル/リチャード・ドレイファス
批評 ネタばれ注意! 結末に触れています


悪いやつらを懲らしめようとしたら、自分の思いこみ。偉大な父に認められようと精一杯頑張っているのに、いつも否定される。これが普通の男ならば、信仰のおかげで苦悩の果てに生きる道しるべを得た希望の物語になってもおかしくない。しかし、主人公は世界の趨勢を左右する最高権力の座にある人間。超人的な能力とリーダーシップを発揮しなければならないはずなのに、こんな卑小な人物を指導者に選んでしまった米国有権者の人を見る目のなさに対する自嘲とも思える開き直りが、映画にブラックユーモアをもたらし、強烈な皮肉となっている。


アフガンを制圧後、80%の支持率を背景にイラク侵攻を目論むブッシュ政権は、「大量破壊兵器」を口実に開戦の時期をうかがう。そんな彼は若いころから何をやっても長続きせず、アル中とファザコンに苦しめられていた。


大統領にまで上り詰めた政治家たる父親の、不肖の息子という立場はいかに辛いものか。常に家名に恥じない行動を求められ、期待に応えなければならない。その重圧から逃れようと無軌道に走ったりもするが、結局父親のコネに頼ってしまう。さらに優秀な弟の存在がプレッシャーとなる。また、中東を支配しようとするのは米国に石油を安定供給するためという、ブッシュ政権のネオコンたちが信じる正義は単に米国のエゴに過ぎないことを喝破する。実在の人物そっくりにメークされた俳優の中でチェイニー役のリチャード・ドレイファスが秀逸。石油会社のCEOを務めるこの男がいかに米国の国益だけでなく人類を敵に回す存在だったかを、パウエルとの対立を軸に如実に描かれている。


やがてイラクを倒すが「大量破壊兵器」は見つからない。ブッシュは大統領執務室で父から諫言をされる夢を見るが、これは60歳近い男がファザコンを克服できないということではなく彼の幼稚さを印象付けるためのテクニックだろう。ラスト、ブッシュは唯一安心できる場所である野球場で打球を見失うが、それは彼の2期目が目標を失って迷走することを暗示する。説教臭い映画ばかり撮ってきたオリバー・ストーンにしては、虚実入り乱れた寓意とメタファーに満ちた語り口で、押し付けがましさがないところに好感がもてた。


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