こんな映画は見ちゃいけない!

映画ライター・福本ジローによる、ハリウッドの大作から日本映画の小品までスポットを当てる新作映画専門批評サイト。

MW -ムウ-

otello2009-05-24

MW -ムウ-


ポイント ★★
DATE 09/5/20
THEATER GAGA
監督 岩本仁志
ナンバー 119
出演 玉木宏/山田孝之/石田ゆり子/石橋凌
批評 ネタばれ注意! 結末に触れています


身代金の入ったカバンを抱えた男がバンコクの雑踏を走り回る。犯人は手の込んだトラップを仕掛け、警察の追っ手をまいた上にまんまとカネを手に入れる。手に汗握る警察と誘拐犯の知恵比べ、高架電車と自動車のチェイス、バイクで逃げる男を走って追いかけるなど過去の名作のワンシーンを髣髴させるような熱のこもった映像で疾走する導入部分は、畳み掛けるようなテンポで見るものを魅了する。しかし、まるでそこで力尽きてしまったかのように、舞台を日本に移してからの物語はまったく精彩を失ってしまう。


全島民虐殺事件の生き残りである結城は、16年後、エリート銀行マンの仮面をかぶった殺し屋となり、事件に関連した人物を拉致しては殺していた。同じく生き残った賀来は神父となっていたが、結城の殺人に手を貸すことに良心の呵責を覚えている。そんなとき新聞記者の京子が連続殺人と島民虐殺の関連に気付く。


虐殺事件の関係者を始末した上、米軍の毒ガス兵器の管理ミスだったという事件の真相を公にし、責任者たる与党政治家に認めさせるというのが結城の目的。そんな、心のない殺人者になってしまった彼を止められないばかりか、自らの手も血で染める賀来の苦悩がほとんど伝わってこない。神に仕える身でありながら悪魔に加担する、本来ならばその葛藤こそが作品のテーマになってもおかしくはないのだが、映画はあくまで結城の復讐劇にシフトする。


その後、結城は孤島に毒ガスを探しに行くが、貯水池にもぐるために酸素ボンベや水中眼鏡は用意しているのにフィンをつけていなかったり、警備厳重なはずの米軍基地に簡単に潜り込むなど、結末を急ぎすぎるあまりディテールがおろそかにされ、ご都合主義の展開に陥る。さらに、その空疎なストーリーを穴埋めするような、過剰に登場人物の感情を説明する音楽が非常に耳障りだ。壮大な原作の要素をすべて盛り込むのは最初から不可能、ならばアクションに特化するくらいの思い切りの良さを見せてもよかったのではないだろうか。。。


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