こんな映画は見ちゃいけない!

映画ライター・福本ジローによる、ハリウッドの大作から日本映画の小品までスポットを当てる新作映画専門批評サイト。

重力ピエロ

otello2009-05-25

重力ピエロ

ポイント ★★★
DATE 09/5/23
THEATER THYK
監督 森淳一
ナンバー 121
出演 加瀬亮/岡田将生/小日向文世/鈴木京香
批評 ネタばれ注意! 結末に触れています


忌まわしい秘密、落書きに隠されたメッセージ、そして復讐。ミステリーとサスペンスの要素をふんだんに持ちながら、その語り口は無機質で、棒読みのセリフが井坂幸太郎の世界を再現する。あくまで理性的であるにも関わらず、根底に理解を超えた感情のマグマを抑え込んでいる、そんな登場人物の心の綾を一枚ずつはがしていくかのような展開は、なぞ解きの期待感に満ち溢れ、やがて明らかになるシュールな現実に直面したとき、家族の絆という愛の物語に昇華される。映画はその過程を静謐な筆致で描写し、遺伝的なつながりは単に塩基配列の相似にすぎず、本当の親子関係は信頼から生まれることを訴える。


連続放火事件の現場のそばに必ず落書きがあることに気づいた春は、その写真を兄の泉水に見せる。生命工学を研究をしている泉水はそれがDNAの塩基配列と直感、春の出生と関連付ける。春は母親がレイプされた結果できた子供で、泉水はそのレイプ犯が街に戻ってきていることを知る。


母が亡くなった後も、父親と兄弟の男3人はベタベタしていると思えるくらい仲がいい。それは父も泉水も春が受け継いだかもしれない犯罪者の気質が発生しないように気を使っているからなのだろう。春のほうもその気遣いを裏切らないように努力している。それでも暴力的衝動を爆発させるときは泉水に付き添ってもらい、暴走しないように見張ってもらっている。危ういまでのバランスの上に成り立ったこの父子・兄弟を見ていると、いちばん近くにいる人間だからこそ、家族はお互いに思いやりを持たなければならないことを実感する。


春の、家族以外の人間に興味を持たない態度は、自分の存在が嫌でも両親にレイプ事件を思い出させるがゆえに感じる自己否定から生まれたもの。終盤、春はレイプ犯を問い詰めるが、レイプ犯は母を侮辱しただけでなく、春に対しても春の予想以上の悪辣な論理で切り返す。春は自らの体に流れるレイプ犯の血という烙印を消すために、レイプ犯にバットを振り下ろす。それは「自分自身がこの世で見たい変化になりなさい」という言葉を実践し、自らの呪われた人生に決着をつけた瞬間。二階から飛び降りる春に、他人を愛する気持ちの萌芽を託したラストは爽やかだった。


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