こんな映画は見ちゃいけない!

映画ライター・福本ジローによる、ハリウッドの大作から日本映画の小品までスポットを当てる新作映画専門批評サイト。

ザ・スピリット

otello2009-06-10

ザ・スピリット The Spirit


ポイント ★★
DATE 09/6/8
THEATER ST
監督 フランク・ミラー
ナンバー 135
出演 ガブリエル・マクト/サミュエル・L・ジャクソン/スカーレット・ヨハンソン/エヴァ・メンデス
批評 ネタばれ注意! 結末に触れています


黒いスーツに黒いマスクと帽子、街を犯罪者から守るために戦う男の扮装は、あくまでスタイリッシュ。闇の深さを強調するシャープな映像はモノクロ映画の様相で、夜を切り裂く真っ赤なネクタイが色彩のない世界で正義を象徴する。だが、不死身の主人公はキャラクターの魅力に乏しく、敵役も個性が浮かび上がってこない。唯一の見所がエヴァ・メンデス扮する女泥棒のセクシーな口元というのでは、原作コミックになじみのないものにはまったく共感を呼ばない。


水中に没した2つの箱を引き上げようとした女泥棒・サンドは犯罪王・オクトパスに襲われ、一つだけ箱を持って逃亡する。そこにスピリットが現れオクトパスと戦ううちに、もうひとつの箱をオクトパスの子分が確保する。オクトパスがサンドを追い、スピリットがオクトパスを追う過程で、サンドの正体が明らかになっていく。


ナイフに刺されても銃弾に貫かれてもスピリットはびくともしない。それはオクトパスも同じで、沼地のような水辺で2人がひたすら殴りあうシーンは、いつまでたっても勝負がつかない。このあたりから早くも失速し、あとは光量の不足した暗い画面でなにやらもぞもぞと登場人物が動き回っているようにしか見えない。唯一、若き日のスピリットとサンドのほろ苦いエピソードだけが物語のスパイスになっている。


サンドとオクトパスは箱の中身の交換するため取引する。その情報を得たスピリットと、共に出動した警察の総攻撃が始まる。そこは視覚効果をCG処理に頼った薄っぺらなデジタル映像の羅列で、なにも印象に残らない。無敵の強さで警察を撃退したオクトパスを最後にはスピリットとサンドが協力して倒すが、サンドの気持ちの揺れはあまり描かれず、スピリットと熱いキスを交わすのみ。やはりスピリットのいちばん愛しているものが、サンドでも彼を治療する女医でもなく、舞台となっている街というのが感情移入できない最大の原因。人を愛したくても肉体の秘密ゆえかなわないというなどの苦悩がもっと語られていれば説得力もあったのだが。。。


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