こんな映画は見ちゃいけない!

映画ライター・福本ジローによる、ハリウッドの大作から日本映画の小品までスポットを当てる新作映画専門批評サイト。

色即ぜねれいしょん

otello2009-06-12

色即ぜねれいしょん

ポイント ★★*
DATE 09/6/4
THEATER ASMIK
監督 田口トモロヲ
ナンバー 131
出演 渡辺大知/堀ちえみ/リリー・フランキー/臼田あさ美
批評 ネタばれ注意! 結末に触れています


幸せな家庭に生まれ、グレる理由もないのがコンプレックスという、ボブ・ディランに憧れてギターを弾く文科系男子高校生。打ち込むべき目標も反抗すべき対象も特にない、平凡すぎる少年のありきたりな日常は、背伸びしようともせず、ひねくれるわけでもない。そこには青春のきらめきや生きる喜びのような積極的に人生を肯定するものはなく、ただただしょぼい時間が流れていくだけだ。まだ何ものにもなれない自分の可能性を模索する過程にもかかわらず、苦悩より煩悩が勝るところがほほえましい。


京都の男子高に通う純は他人の目ばかり気にする垢抜けない生徒。夏休みになって、フリーセックスの島という噂の隠岐に友人ら3人で遊びに行き、オリーブと名乗る女子大生と知り合う。オリーブは別れ際、純に電話番号を書いた紙を渡す。


舞台は1974年、政治の季節は終わり、革命に敗れた学生くずれがいまだに理想を追っている。「悩めるのは自由の証」「さよならだけの人生じゃつまらない」「別れの後には出会いがある」などの、ユースホステル世話人ヒゲゴジラのくさいセリフが時代を感じさせる。夢を諦めるには若過ぎ社会に戻るには歳をとり過ぎた男の悲哀がよくにじみ出ていた。その一方で純たちが事あるごとに「フリーセックス」と叫ぶわりにはなかなかセックスに結びつかない、そんな日本人的な奥ゆかしさが笑える。


やがて文化祭になり、純は自作の歌を披露する。それは甘ったるいフォークソングではなく、彼のリビドーを前面に押し出したパワフルな曲。男子高校生ならばみな、心に抱えているけれど口にするのは恥ずかしい欲求不満を代弁し、たとえ行為にまで至らなくても「ヤリたい」気持ちで共感を得ることができる。その歌を熱唱する純はそれまでとは別人のように輝いている。歌詞に込めたメッセージを強烈なビートの曲に乗せて聴衆のハートに送り込む、「歌は武器になる」と言った家庭教師の言葉が実感できる瞬間だった。


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