こんな映画は見ちゃいけない!

映画ライター・福本ジローによる、ハリウッドの大作から日本映画の小品までスポットを当てる新作映画専門批評サイト。

真夏のオリオン

otello2009-06-15

真夏のオリオン

ポイント ★★*
DATE 09/6/13
THEATER 109KH
監督 篠原哲雄
ナンバー 140
出演 玉木宏/北川景子/堂珍嘉邦/平岡祐太
批評 ネタばれ注意! 結末に触れています


日本に残してきた愛する人、同時に戦場に向かった戦友と、戦ううちに尊敬の念すら抱く敵、さらに命の大切さを説く艦長。物語は戦争を舞台にしながら、あくまで誇り高く生き抜くことに主眼を置く。決して死を美化せず、まして自爆攻撃など絶対に認めない。そこに、ベトナム戦争以前の米国製戦争映画のような、「命をかけたゲーム」としての戦闘シーンの描写。戦争の悲惨さよりも、潜水艦と駆逐艦の虚々実々の駆け引きが繰り広げられる。「死ぬために戦っているのではない、生きるために戦っている」という主人公のセリフが従来の日本製戦争映画とは一線を画す。


太平洋戦争末期、米艦隊の補給路を断つために南方に送られたイ-77潜水艦は、倉本艦長の指揮下、タンカーに魚雷を命中させる。そして救援救助に駆け付けた米駆逐艦との一騎打ちが始まる。


「潜水艦は単独行動が許され、自由だ」という倉本の言葉通り、艦内にもありがちな陰湿な上下関係はなく、オープンな雰囲気だ。それは艦長の性格にもよるだろうが、全員が一蓮托生のもと、一つのミスも許されない状態で長期間作戦行動を狭い空間で共にするからだろう。倉本は思いを寄せる女性から受け取った楽譜に擬した恋文を、部下たちに見せたり演奏させたりまでする。その連帯感は軍隊の枠を超えた運命共同体としての役割を十分に果たし、人間同士の強い絆を生むことを教えてくれる。人間魚雷・回天を敵の命を奪う兵器としてではなく、救命に使うアイデアが素晴らしい。

残りの酸素は少なく、駆逐艦からは爆雷の雨。もはや勝ち目がない状況で倉本は賭けに出て、最後の魚雷を命中させるが撃沈にまでは至らない。倉本はイ-77を浮上させるが、無駄な死を最も嫌う彼の性格から、これは降服を意味するのだろう。結局、乗組員を1人失っただけで戦争は終わる。激しい銃撃戦も派手な爆発もほとんどなく、盟友の潜水艦が沈むだけ。恋人と再会し、敵と友情を交わすことで反戦を訴える、稀有な作品だった。もっともその分、手に汗握るアクションに乏しく、感傷的なシーンが多くなってしまったが。。。


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