こんな映画は見ちゃいけない!

映画ライター・福本ジローによる、ハリウッドの大作から日本映画の小品までスポットを当てる新作映画専門批評サイト。

あの日、欲望の大地で

otello2009-06-16

あの日、欲望の大地で The Burning Plain


ポイント ★★★
DATE 09/6/11
THEATER EB
監督 ギジェルモ・アリアガ
ナンバー 138
出演 シャーリーズ・セロン/キム・ベイシンガー/ジェニファー・ローレンス
批評 ネタばれ注意! 結末に触れています


赤茶けた荒涼とした大地と陰鬱な雲に覆われた街、トレーラーハウスに通う人妻と奔放なセックスにふける女。舞台となる風景は対照的でもそこで繰り広げられる欲望は相似形をなす。それは彼女たちが血のつながった母娘だから。現在と過去、都市と荒野、それぞれの登場人物がランダムに語られ、やがて複雑に絡み合った情念と愛の糸となって一本に紡がれてゆく。心に重大な秘密と深い罪の意識を抱えながら生きるヒロインの姿を通じて、家族の崩壊と再生を描く。


お互い家庭を持ちながらも密会を続けるジーナとニックは、ベッドで抱き合いながら事故で同時に死ぬ。ニックの息子・サンティアゴはジーナの娘・マリアーナと話すうちに、お互い魅かれあっていく。


有能なマネージャーとしてレストランを切り盛りするシルヴィアという女は、私生活では男出入りが激しい。ある日、農薬散布中に墜落した男の娘がシルヴィアに会いにくる。エピソードは脈絡なくつなぎ合わされ、まるで今暮らしている世界を仮の居場所と思い込んでいるシルヴィアの感情を象徴しているよう。おそらく彼女の時間は夫と娘を捨てたとき、いや、トレーラーハウスのガスに火をつけた瞬間から止まっていたのだろう。それゆえ時制の前後など重要ではなく、過ぎ去った日々を忘却の彼方に追いやろうとしている一方で、自傷行為で犯した過ちを再確認する。そのあたりの微妙に揺れ動く心情を、シャーリーズ・セロンはどこかあきらめの混じった悲しげな表情で表現する。


禁じられた恋ゆえに、情熱的に求めあい結局は不幸な結果をもたらす。シルヴィアが娘との再会を一度は拒んだのは、母と自分の経験からそれを知っていて、娘にもその気質が引き継がれていることを恐れたのだろう。それでも母娘の絆は理屈を超えたもの、そして忌まわしいできごとは愛があれば何とか克服していける。娘との和解と、かつて愛し合い一度捨てた夫との新しい関係を構築しようと試みるシルヴィアの姿、そのラストシーンに大いなる希望が持てた。


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