こんな映画は見ちゃいけない!

映画ライター・福本ジローによる、ハリウッドの大作から日本映画の小品までスポットを当てる新作映画専門批評サイト。

扉をたたく人 

otello2009-07-02

扉をたたく人 The Visitor


ポイント ★★★*
DATE 09/6/29
THEATER EGC
監督 トム・マッカーシー
ナンバー 154
出演 リチャード・ジェンキンス/ヒアム・アッバス/ハーズ・スレイマン/ダナイ・グリラ
批評 ネタばれ注意! 結末に触れています


世間とのかかわりを最低限にとどめ、自分の殻に閉じこもる男。他人の干渉を避けて壁を作り、あえて孤独に身をおいて残り少ない人生からフェイドアウトしようとしている。そんな男の前に現れた青年と彼の恋人。真面目に働いているにもかかわらず、絶えず当局の目を気にしている。行き場のない彼らと出会ったことで、男はもう一度生きる喜びを取り戻す。映画は主人公の喪失感と後に生まれる希望をベースに、米国社会に蔓延する不寛容と個人の良心をコントラスト鮮やかに描く。


大学で教鞭をとるウォルターは、妻の死後無気力な日々を送っていた。ある日、出張でNYのアパートに寄ると、タレクとゼイナブというカップルが無断で住み着いていた。行き場のない彼らに住処を提供するうちに、ウォルターはタレクが叩くジャンベというドラムの魅力に感じていく。


911以後、顕在化したアラブ系住民に対する警戒感が罪のない人々を押しつぶしていく過程は、もはや自由の国とは言いがたいほど強権的。タレクは無賃乗車の疑いがかかっただけで逮捕されるが、窓も装飾も一切ない拘置所の建物が、その官僚的な冷たさを強調している。タレクの力になろうとウォルターは奔走するが、彼1人の力ではどうすることもできないほど事態は硬直してしまっている。それでも面会室のガラス越しに心を通わせる2人の姿に、優しさや思いやりといった善意があふれ出し、まだまだ人の世も捨てたものではないと感じさせる。


やがてタレクは母・モーナに連絡を取る間も与えられず強制的に国外追放される。タレクの後を追うようにモーナも米国を後にするが、空港のターミナルに誇らしげに掲揚された星条旗を彼女はどんな気持ちで見上げただろうか。かつて故国で迫害にあって渡米し、善良な住民として数十年暮らした挙句の仕打ち。無理解や無関心が敵意を生み、それが世の中の風潮となってしまうと、友情や愛情といった人間のいちばん大切な感情までも平気で踏みにじられ引き裂かれていく。安全保障の名のもとで行われる非人道的行為、現代の米国が抱えるジレンマを象徴するシーンだった。


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