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映画ライター・福本ジローによる、ハリウッドの大作から日本映画の小品までスポットを当てる新作映画専門批評サイト。

ゴー・ファースト 潜入捜査官 GO FAST

otello2009-07-03

ゴー・ファースト 潜入捜査官 GO FAST


ポイント ★★★
DATE 09/7/1
THEATER ASMIK
監督 オリヴィエ・ヴァンホーフスタッド
ナンバー 155
出演 ロシュディ・ゼム/オリヴィエ・グルメ/ジャン=ミシェル・フェット/ジル・ミラン、カタリーナ・ドニ
批評 ネタばれ注意! 結末に触れています


一つ間違えば暴走しかねない短気と、惨殺された親友の復讐に燃える執念。狂気にも似た激情を秘めた男が潜入捜査官となって麻薬密売組織に入り込む。主人公を演じるロシュディ・ゼムの獲物を狙う野犬のようなクセのある険しい顔が強烈。拳銃の解体と組み立てに始まり、射撃、水泳、車の運転などの技術研鑚を積んだ挙句、真夜中にたたき起こされて手錠をはめられたまま川に放り込まれるなど、非常にハードな訓練に耐えるシーンが印象的だ。犯罪者と戦う使命感以上に、危険に身をさらすことにしか生きる実感を見いだせない男の性が深い悲しみを伴って描かれる。


パリ郊外の移民地区で麻薬取引を張り込み中の刑事たちがリュシアンという男に皆殺しにされる。別件の捜査中だったマレクは麻薬組織壊滅のために潜入を命じられ、厳しいトレーニングの末運転手として組織に雇われる。モロッコからスペインに運ばれた麻薬は、自動車に積み替えられてフランスに向かい、マレクは運転を任される。


登場人物の緊張や怒りといった精神状態を音楽で強調したり、思わせぶりなカットや演出を排することで醸し出す圧倒的なリアリティ。宝石店強盗から始まり、密売人の監視、有無を言わせぬ発砲、さらに5分以内に車を奪えとか、犯人の車をそっくり入れ替えるなどの大掛かりなトリックまで、犯罪現場の息遣いが聞こえてくるようだ。そこには芝居がかった派手さは一切なく、ただカネのためにだけ動く悪党とその撲滅に身をささげる警察の命がけの死闘があるのみ。銃撃戦もカーチェイスも、むしろそっけないと思えるほどの装飾のなさが臨場感を盛り上げる。


組織の女ドライバーと微妙な関係になり運転の腕を競いあう場面も、壮絶なカーアクションが展開するのか思いきや、ここでも凝ったアングルのスリリングな映像ではなく、上空からのショットに収め、あくまでカメラは控えめだ。やがてスペインからフランスに向かう途中、マレクの正体がリュシアンにばれ、助手席の男から銃を突きつけられる。止まると殺されるのでマレクは死を覚悟してアクセルを踏み続ける。このチキンレースに賭けた作り手の思いは、そのままスクリーンから伝わってくるようなテンションだった。


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