こんな映画は見ちゃいけない!

映画ライター・福本ジローによる、ハリウッドの大作から日本映画の小品までスポットを当てる新作映画専門批評サイト。

ぼくとママの黄色い自転車

otello2009-07-22

ぼくとママの黄色い自転車


ポイント ★★★
DATE 09/7/17
THEATER TOEI
監督 河野圭太
ナンバー 170
出演 武井証/阿部サダヲ/西田尚美/鈴木京香
批評 ネタばれ注意! 結末に触れています


真実に目を背けさせ、平穏なフリをするためにつき続ける嘘。それはやがてほころびを見せ始め、少年を冒険に駆り立てる。自分を心配してくれているはずの母、しかし文通の形でしか連絡が取れない。写真でしか記憶にない母の姿を求める旅の途中で、少年は傷つき、疲れ果て、精魂尽き果てそうになるが、そのたびに人々の親切に助けられ目的地に近づいてゆく。物語は愛ゆえに強くなっていく彼の成長と、親から子への思いが強いほどそれが失われていく過程の切なさを描く。


小学3年生の大志はパリに留学中の母・琴美からの手紙を楽しみに待っている。ある日、父の戸棚で小豆島からの封書を見つけ、本当は琴美が小豆島にいることを知る。大志は夏休みを利用して、愛犬のアンとともに小豆島を目指す。琴美は若年性認知障害で小豆島の療養所でケアを受けていた。


ぎこちない笑顔と大袈裟な動作、いつも大志に気を使っている父親との二人だけの家庭の不自然な明るさと、秘密を共有する叔母一家の気の遣いぶり。あまりにも芝居がかった作り物の幸せが大志の置かれている虚構の世界を象徴する。大志自身の素直さや明るさ・積極性もそんな大人の期待にこたえようとしているかのよう。だが、道中知り合った人々との交流の中で愛には様々な形があり、強がりやせ我慢もその表現のひとつであることを学んでいく。特に、明石で知り合った少女・由美の強引で機転の利く口の達者な表向きの顔は、父親に捨てられた母子家庭で育った淋しさの裏返し。大人の勝手さに傷つきながらも気丈に生きる姿がたくましい。


なんとか小豆島にたどり着いた大志は、刺激に向反応な琴美と対面する。母が母でなくなっている、それでも意識のあったころの琴美はどれほど大志のことを気にもんでいたかを知って、大志は琴美がただひとりの母であることを認める。一瞬だけ琴美は大志の手を握るが、それはただの反射にすぎないことは分かっている。しかし大志には、はるばる会いに来たことを琴美が喜んでいると感じられたはずだ。映画は、作り物めいた前半部分と対照的な冷徹な現実を大志につきつけることで、哀しい家族の叶わぬ愛を美しい瀬戸内海の風景の前に際立たせている。「小豆島にいるママがいちばん好き」という大志の言葉に救われた気がした。


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