引き出しの中のラブレター
ポイント ★★★
DATE 09/7/27
THEATER SC
監督 三城真一
ナンバー 178
出演 常盤貴子/林遣都/中島知子/岩尾望/竹財輝之助/萩原聖人
批評 ネタばれ注意! 結末に触れています
顔を合わせれば言い争いになる親子、遠く離れて暮らす夫婦、突然連絡が取れなくなった恋人。ちょっとしたすれ違いでつい疎遠になってしまい、ちっぽけなプライドが邪魔をして言葉をかけられない。そんな、心の奥に「伝えたかったのに、伝えられなかった思い」を抱えている人々の背中をそっと押してやる。映画はヒロインのわだかまりとなっている死んだ父親への後悔を軸に、便せんにペンで綴る手紙の効用を説く。それは相手に気を配ると同時に己の言動もかえりみる行為。さらに、ラジオというメディアを通すことで、同じ感情を胸にくすぶらせている人々=観客の共感を得ようとする。
DJの真生は番組中、「おじいさんを笑わせたい」という高校生・直樹の便りを取り上げ、「笑わせる方法」を公募する。直樹の父と祖父が絶縁中という事情を知った真生は、一方でけんか別れしたままの父からの手紙の封を切れずにいた。
身近な他人とのいさかい、その裏にある謝罪の意思を素直になれないからこそ電波に乗せて届けようとする。真生はそんなリスナーの願いをくみ取り「引き出しの中のラブレター」という番組で特集する。彼女自身、生前の父が最後にしたためてくれた手紙に返事を書いていない。真生にとって、直樹の父と祖父はそのまま自分と父の姿に重なり、彼らを和解させることが天国の父への贖罪になるのだ。だからこそ真生はわざわざ東京から函館まで足を運び、彼らのもつれた関係を解こうとする。彼女の切実さが非常にリアルで、愛する人がいるのならばその気持ちをストレートに文章にしようという気にさせてくれる。
若い医者、妊婦とその母、タクシー運転手といった一見無関係な登場人物が、直樹の祖父を中心とする輪の中で緩やかな、しかし運命的なつながりを持っているという脚本の仕掛けも楽しめる。なにより、大切な要件まで携帯メールですまそうとする風潮の中、手紙という古典的なツールの持つ力を真正面から描こうとする姿勢に好感が持てた。