こんな映画は見ちゃいけない!

映画ライター・福本ジローによる、ハリウッドの大作から日本映画の小品までスポットを当てる新作映画専門批評サイト。

大洗にも星はふるなり

otello2009-07-30

大洗にも星はふるなり

ポイント ★★★
DATE 09/7/28
THEATER SC
監督 福田雄一
ナンバー 179
出演 山田孝之/山本裕典/小柳友/白石隼也/戸田恵梨香
批評 ネタばれ注意! 結末に触れています


ちょっと微笑みを向けられただけで自分に気があると思い込み、楽しい会話を交わしただけで恋人気分になる。ほとんど男ばかりのバイト先にひとりだけいるカワイイ女の子、誰もがみな彼女に好意を持ち、彼女とかかわった時間に意味を見出そうとする。それは大いなる勘違いの産物なのだが、ちいさな関わりを精いっぱい装飾して幸せな思い出に加工してしまう、そんな男たちの単純な頭の構造を徹底的に笑い飛ばす。映画は小劇場の一幕物芝居のような早回しのセリフと狭い空間を舞台に、過去と現在・現実と空想の狭間を行き来する。


クリスマス・イブ、大洗海岸にある休憩所に夏の間一緒に働いた杉本・松山・仁科・猫田のバイト仲間とマスターが集合する。彼らはみな海の家のアイドルだった江里子からの手紙を携え、我こそは江里子とイブの夜を共にすると自負している。


大洗は、茨城県水戸市という「日本三大ブスの産地」のすぐ近くで、美人はほとんどいないことが物語の前提になっている。江里子と一緒にいたヨシミはとんでもないブスの設定で、よその土地から来た人間にはヨシミこそが大洗を代表する女の子。猫田を除く4人が、ヨシミがいかにブスかその表現のえげつなさを競う場面で、実は密かにヨシミと付き合っている猫田の微妙な表情が素晴らしい。ヨシミがブスなのを承知で付き合っているが、他人に指摘されるのは不愉快、それでも江里子に会いに来た手前ヨシミと付き合っていることを言い出せない。怒りと後ろめたさとスケベ心が入り混じった複雑な心境がよく表現されていた。


一方の江里子は6人の男が夢中になるくらいの美人なのだが、男たちが口にする江里子像は理想の女性としてさらに美化されている。各自が自慢げに語る彼女とのエピソードは都合よく脚色されていて、その妄想が離婚調停を通じて男女の機微に通じた弁護士に喝破されていく過程は、本人の落胆ぶりが誇張されていて心をくすぐる。恋する男の馬鹿さ加減が過剰な感情的リアリティを持って見事に描かれていた。


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