こんな映画は見ちゃいけない!

映画ライター・福本ジローによる、ハリウッドの大作から日本映画の小品までスポットを当てる新作映画専門批評サイト。

リミッツ・オブ・コントロール

otello2009-09-05

リミッツ・オブ・コントロール THE LIMITS OF CONTROL


ポイント ★★
監督 ジム・ジャームッシュ
ナンバー 209
出演 イザック・ド・バンコレ/ティルダ・スウィントン/ジョン・ハート/ガエル・ガルシア・ベルナル/ビル・マーレイ
批評 ネタばれ注意! 結末に触れています


目に見えるものの裏に何があり、何が起きているのかの説明はなく、言葉少ない主人公が旅の途中感じる違和感はそのまま観客の感覚となる。あらゆるイマジネーションを駆使してもその空白を埋めることはできず、物語は断片的な過程と決定的な結果を示すだけ。結局、男の彷徨を通じて何が言いたかったのかほとんどわからなかった。「想像力を使え」というのがこの作品のテーマなのは確かだが、荒涼と乾ききった大地をしっとりとした質感でフィルムに焼きつけた豊饒な風景以外は恐ろしく空疎で、どんな解釈もなりたつ展開は、「中心も端もない宇宙」のごとくとらえどころのない茫洋としたものだった。


ある男の暗殺を請け負った「孤独な男」はスペインに飛び、街のカフェで指示を待つ。次々と現れる男と女、それぞれが次の指令のメモを届け、世間話を交わしていく。


「孤独な男」に手渡されるメモの内容は抽象的で、彼らの会話も映画やアートといった犯罪とは縁遠い話題ばかり。また彼が特殊な身体能力を発揮する場面もまったくなく、何事にも動じない精神状態のみが強靭な肉体を予想させる。2杯のエスプレッソ、美術館の絵、ボクサー絵のマッチ箱、フラメンコ、裸女の左だけ垂れた乳房etc. それらの小道具は何らかのメタファーや伏線のようでもあるが、最後まで「孤独な男」の運命には影響しない。おそらく「ボーン・アイデンティティ」のようなリアルな暗殺者の対極を描きたかったのだろうが、寡黙な映像は、「本当は何もないのに何かあるふりをしている」にしか見えない。


やがて「孤独な男」はターゲットとなるアメリカ人のアジトに到着する。そこは厳重に警備された要塞で、ここでもいきなりアメリカ人の執務室に侵入、その手口は「想像力を使った」というだけ。凶器のギターの弦はわざわざ古いギターからはずしたものだが、なぜそこまで回りくどいことをしたのかの理由はもちろん明かされない。ディテールを省略して主張をぼかし、「すべて主観的なもの」と逃げるジム・ジャームッシュの姿勢はいかがなものか。。。


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