スペル Drag Me to Hell
ポイント ★★*
監督 サム・ライミ
ナンバー 214
出演 アリソン・ローマン/ジャスティン・ロング/ローナ・レイヴァー
批評 ネタばれ注意! 結末に触れています
ヒロインを追い詰める黒い影や不気味な気配が、お決まりの衝撃音でショッキングなシーンに転換する。思わせぶりなカメラワークは、1970年代に流行したオカルト映画のようにオーソドックス。さらに死体になっても襲い掛かってくる老婆のしつこさはもはや恐怖よりもコメディの域に達している。そして決して期待を裏切らない、収まるべきところにきちんと収まるオチ。悪霊の呪いをかけられた女が体験する超常現象を通じて人間の逆恨みの恐ろしさを描く過程は、ホラー映画の教科書のようだ。
銀行の融資課に勤めるクリスは返済の延長を申し出た老婆を追い返すが、帰宅途中、車の中でその老婆に「ラミアの呪い」をかけられる。恋人のクレイと共に霊能者に見てもらうと、ラミアは3日後にクリスの魂を奪いに来るという。クリスは呪いを解こうと老婆の家を訪れるが、彼女はすでに死んでいた。
歯のない口で老婆が噛みついたり、寝ているクリスの鼻の穴に入ったハエが反対の鼻の穴から出てきたり、クリスにのしかかった老婆の死体から大量の嘔吐物が吐き出されたり、潰れた眼球から体液が飛び散ったり・・・。直接クリスの命を狙おうとするラミアの暴力的な恫喝より、真綿で首を絞めるようにクリスを追い詰めていくディテールがむしろユーモラスで、それが逆に彼女の繊細な感情の描写として効果的だ。
追い詰められたクリスとクレイは除霊師のもとを訪れて儀式を行うが、それも実効はなく、結局呪いのかかったコートのボタンを老婆の死体に戻すという結論に達する。深夜に老婆の墓を暴くのだが、そこでも死体だけでなく墓穴に流れ込む大量の泥水と大格闘。このあたりもくどいほど老婆の死体を活用し、そのえげつなさはなかなか楽しめる。そしてボタンが再びクリスの手に返されるという衝撃のラスト。ここも分かりやすい伏線が張ってあって、予想通りの結末だ。肉体を切り刻んだりするなどの残酷な方向に走らず、あくまで洗練された表現で、住み慣れた家を奪われた老婆の無念をB級ホラーに仕上げるサム・ライミの姿勢に好感が持てた。