こんな映画は見ちゃいけない!

映画ライター・福本ジローによる、ハリウッドの大作から日本映画の小品までスポットを当てる新作映画専門批評サイト。

海角七号

otello2009-09-11

海角七号

ポイント ★★*
監督 魏徳聖
ナンバー 215
出演 范逸臣/田中千絵/中孝介/林暁培/梁文音
批評 ネタばれ注意! 結末に触れています


「僕が向かっているのは故郷なのか、それとも故郷を後にしているのか」。生まれた日本よりも、愛する人を見つけた台湾に離れがたい郷愁を抱いてしまった日本人。日本統治下の台湾で教え子と恋に落ちた教師が、敗戦に引き裂かれる哀しみを彼女に認めた手紙が60年の歳月を経て現代の若者に受け継がれる。同じ日帝支配の過去を持ちながら、韓国・中国などとは比べ物にならないほど反日感情が希薄な台湾人の、おおらかかつきめ細かい人情が南国の風を背景に余情たっぷりに描かれる。


ミュージシャンの夢破れ田舎に戻ったアガは、郵便配達夫のアルバイトにつく。そこで「海角七号」宛ての手紙を見つけるが、その住所は存在しない。そんな時、日本人歌手のコンサートの前座を務めるはめになり、オーディションで集めたバンド仲間と練習を始める。


日本人の売れないモデル・友子が前座バンドの通訳兼マネージャーとなるが、アガはなかなか曲を作らない。傷ついた心を隠そうとしないアガと、傷ついた心を知られたくない友子は衝突をくりかえすが、実はお互い似た者同士であると気づく。友子がアガの部屋で日本語の手紙を見つけ内容をアガに教えるシーンで、2人は、自分の気持ちを正直に伝える大切さを知る。相愛だったのに別れ、他の配偶者と別の道を歩んだ男の思いがこもった手紙をきちんと配達するのは、その男の人生を完結させるだけでなく、己の人生も再生させることなのだ。


映画は、前半はコミカルに騒がしく、後半はシリアスにテンポよく、バンドの練習と2人の恋の成り行きが語られる。しかし、日本語の手紙の主とアガ・友子の因縁が希薄で、運命に導かれた出会いというような展開がないのが残念。また、いくらアガに責任感を自覚させるためとはいえ、本番直前に手紙を届けさせるのはマネージャーとして友子はいかがなものか。あと、物語の節目にシューベルトの「野ばら」が口ずさまれるが、この歌は日本統治下の台湾にとって何らかの特別な意味があったのだろうか。月琴奏者のじいさんにそのあたりの事情を語らせれば、もっと過去と現在に密接なつながりが芽生えたはずだ。。。


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