こんな映画は見ちゃいけない!

映画ライター・福本ジローによる、ハリウッドの大作から日本映画の小品までスポットを当てる新作映画専門批評サイト。

火天の城

otello2009-09-17

火天の城


ポイント ★★*
監督 田中光敏
ナンバー 220
出演 西田敏行/福田沙紀/椎名桔平/大竹しのぶ
批評 ネタばれ注意! 結末に触れています


天に届けとばかりに、小高い丘の上に建てられた5層の天守閣。その壮麗なたたずまいと睥睨するかのような威容は、かがり火に照らされて、見上げる者すべてを圧倒する。天下統一のシンボルとして織田信長が建築を命じた安土城、その大事業に設計から仕上げまですべての工程に携わった大工の棟梁の奮闘は、現代の超高層ビル建設に匹敵する大工事。模型作りから材木の入手、組み立てそして棟上げまで、信長の難題を形に変える苦労と工夫を再現する。


天正四年、熱田の宮番匠・又右衛門のもとに織田信長直々に安土城築城の依頼がくる。京都、奈良の名工らとの指図争いに勝った又右衛門は、工事を受注、天守を支える支柱の大檜を求めて木曽の山に赴く。そこは武田側に味方する木曽氏の領土、だが樵の甚兵衛と心を通わせ、大檜の提供を約束させる。


途中、弟子が徴兵されたり、妻の多鶴が病死したり、信長が刺客に命を狙われたりと、さまざまな困難が又右衛門を襲う。特に蛇石という大石を無理矢理移動させようとする際に、間者の放った爆弾で大縄が切れ、引っ張っていた数百人の労働者の上に転がり落ちて大惨事になる場面はパニック映画さながらのCGと実写の合成で大迫力だった。さらに緩んだ礎石のせいで梁や柱にゆがみが生じ、調整のために大黒柱を切って寸を詰める作業は、人足だけでなくその家族まで力を合わせて工事を完成させる。「作事は木を組むのではなく、人の心を組むのだ」という又右衛門の言葉が見事に凝縮されたシーンだった。


やがて完成した安土城は、信長の威光を世界に知らしめるかのような豪華絢爛たる外観。だが、その栄光も信長の死と共に朽ち果て、史実では3年ほどで焼失したという。ならば短い人生を駆け抜けた信長や、本能寺で信長と運命を共にした又右衛門など、諸行無常・栄枯盛衰の象徴として、安土城が灰となった姿まで見せるべきだろう。燃え盛る炎の美しさを、人間のはかなさに昇華して、滅びの美学として表現してほしかった。


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