こんな映画は見ちゃいけない!

映画ライター・福本ジローによる、ハリウッドの大作から日本映画の小品までスポットを当てる新作映画専門批評サイト。

ココ・アヴァン・シャネル

otello2009-09-24

ココ・アヴァン・シャネル COCO AVANT CHANEL

ポイント ★★*
監督 アンヌ・フォンテーヌ
ナンバー 226
出演 オドレイ・トトゥ/ブノワ・ポールブールド/エマニュエル・ドゥボス/マリー・ジラン/アレッサンドロ・ニボラ
批評 ネタばれ注意! 結末に触れています


きっと父が面会に来てくれる、そう願って孤児院での生活に耐えていた少女時代。自分たちを捨てた父という男はとうに彼女のことなど忘れている。その原体験が後の彼女の人生において、男性不信を植えつける。恋をしても愛するな、言葉だけの約束は信じるな、己を安売りするな。常に男に対して挑発的な態度をとり続け相手に主導権を取らせない、そんな高慢で自我の強いのヒロインが唯一心を許した男も、やはり他の女のもとに走る。映画は、若き日のココ・シャネルが貴族に囲われていた時代にスポットを当て、彼女が愛よりも仕事を選ぶまでを描く。


昼間はお針子、夜はクラブで歌っていたガブリエルはココのニックネームで人気を得ていた。ある夜、客のエティエンヌに誘われ、別荘に招待される。そこに住み着いたココはパーティや乗馬といった上流階級のライフスタイルを学ぶうちにボーイという英国人と知り合い、強烈に惹かれていく。


タイトルに「avant」とあるように、ここで語られるのはあくまでシャネルの前半生。彼女がファッション界にもたらした革命の素地はどういうものだったのかが克明に記される。エティエンヌとの別荘ライフの中で、コルセットに固められた女性のウエストを解放したり、シンプルな麦わら帽をデザインしたり、華やかなドレスを競う舞踏会にシンプルな黒の衣装で登場したりと、彼女の先進ぶりは示すエピソードが随所にちりばめられる。愛人の地位に甘んじることなく、女性が本当に求めているファッションとは何かを貪欲に吸収して行く姿がたくましい。


父親、エティエンヌ、ボーイ。ココが思いを寄せた男はこの3人だけだが、彼らはみなココをいちばん愛してくれたわけではない。「愛と結婚は関係ない」と、不倫男の常套句をボーイも口にするが、自立心と向上心旺盛なココはビジネスパートナーには向いていても、運命を共にするのは並の男には荷が重すぎる。誰のものにもなりたくないという叫びが、女が女のためにデザインした男に媚びないファッションの原点なのだ。ただ、愛を捨てた代償が世界的な富と名声ならば、彼女の孤独と苦悩までを描きこんでほしかった。


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