こんな映画は見ちゃいけない!

映画ライター・福本ジローによる、ハリウッドの大作から日本映画の小品までスポットを当てる新作映画専門批評サイト。

ウェイヴ

otello2009-10-11

ウェイヴ DIE WELLE


ポイント ★★★*
監督 デニス・ガンゼル
ナンバー 237
出演 ユルゲン・フォーゲル/フレデリック・ラウ/マックス・リーメルト/ジェニファー・ウルリッヒ
批評 ネタばれ注意! 結末に触れています


自由よりも規律、個人よりも集団、個性よりも調和。放任されて育った高校生は、表面上は束縛を嫌い団体行動を馬鹿にしている。しかし、心の底では強力な指導者に導いてもらいたい願望を持っている。自信を持てず目標もなく日常を過ごしている人間にとって、自らの進むべき道を迷いなく示してくれるリーダーとゴールを共有するメンバーこそが、生きている実感を得られる根拠となる。自分の能力が誰かに求められ自分も仲間に助けられる相互扶助の精神と、組織への忠誠と団結によって得られる大きな力。映画は高校生たちが全体主義に酔っていく過程を通じて、ファシズムの魅力と恐怖を再現する。


高校教師のライナーは「独裁」というテーマの授業で、生徒たちに大衆心理を体験させようとする。絶対的な指導者を決め、制服やアイコンを定め、行動を統制していく。ところが生徒たちには嫌悪感よりエリート意識が芽生え、次第にライナーの思惑を超えて暴走していく。


たった5日間の実習なのに、だらけていた生徒たちが目を見張るようにシャキッとしていく。特に、少し間抜けでいじめられていたティムがやっと居場所を見つけたかのように変貌し、積極的に活動を始める。危険を冒してロゴを描き、絡んできたチンピラに立ち向かう。そんなティムを止めると、己に批判の矛先が向くのでは恐れる級友たち。彼らはさらに集団に属さない生徒たちを排斥しようとする。その姿はまさに、第一次大戦の敗北と大恐慌で打ちひしがれたドイツ国民がナチス支持者に変貌していく歴史そのままだ。


もちろん批判的な生徒や同僚もいるが彼らの声は実力で排除され、次第に異議を唱える勇気を持つ者もいなくなる。こうした現象が国家規模で起きることには反対だが、カリスマ経営者の会社や、団体スポーツの強豪チームなど、社長や監督の言葉ですべての方針が決まり、配下の社員・選手が同じ価値観で目標に向かって精進するなどというのは普通に存在する。規律と団結、目的と自信。それらは一方で、怠惰な自由に慣れモラルの低下した21世紀の日本にもある程度必要ではないだろうか。。。


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