こんな映画は見ちゃいけない!

映画ライター・福本ジローによる、ハリウッドの大作から日本映画の小品までスポットを当てる新作映画専門批評サイト。

すべては海になる

otello2009-10-29

すべては海になる

ポイント ★★*
監督 山田あかね
ナンバー 251
出演 佐藤江梨子/柳楽優弥/要潤/松重豊/安藤サクラ/吉高由里子
批評 ネタばれ注意! 結末に触れています


「“愛”は本を売るために作家が考えた言葉」、ヒロインが言うように、恋愛小説に描かれた物語のごとき劇的な出来事などわずかで、ほとんどの人は退屈な毎日を繰り返しながら歳老いていく。そんな、仕事・恋・人間関係、それらにしがらみを感じながらも何とかうまく折り合いをつけている彼女の平凡な日常がリアルだ。現状を否定しているわけではないが、どこか「これは本当の自分ではない」と心の隅で違和感を覚え、満ち足りているはずなのに居心地の悪さを感じる現代女性の繊細な心理を佐藤江梨子が好演。不幸な環境の少年を救うことで己を変えるきっかけを探そうとする姿は、真正面から他人と向き合うのが生きることの第一歩であると語っている。


書店員の夏樹は、ある日、主婦の万引きを目撃する。しかし、本は盗まれておらず、夏樹は主婦の家に謝罪に行く。その家庭はバラバラで、長男の光治が家族を立て直そうとしていた。


いつも誰かに愛されたい、必要とされたいと思っている夏樹は、たくさんの男と付き合っても淋しさを胸に秘めている。それは彼女が真剣にまだ人を愛した記憶がないからだろう。愛を与えられても与えた経験がない。だからこそ1人で問題を抱え込んでいる光治に興味を持ち、彼にかかわろうとする。ふたりとも読書が好きで、名著から刺激を受け「人間とは何か」を知ろうとしていたが、そんなものは実体験の中からしか生まれないという事実を学んでいく過程に勇気づけられる。


結局、光治は家族の崩壊を食い止められず、行き場を失う。夏樹は光治に寄り添い力になろうとする。夏樹もまた恋人とのすれ違いに悩み、ベストセラー作家の苦悩を知って現実を見つめなおす。「真実の愛を知って死ぬより、迷っても生きていくほうがいい」という夏樹の言葉は、人生に正解などなく、迷うことこそ人生という悟りにも似た心境。絶望しても苦しくても、とにかく生きていく、その映画のメッセージは心地よい。