こんな映画は見ちゃいけない!

映画ライター・福本ジローによる、ハリウッドの大作から日本映画の小品までスポットを当てる新作映画専門批評サイト。

台北に舞う雪

otello2009-11-06

台北に舞う雪 台北瓢雪

ポイント ★★*
監督 フォ・ジェンチイ
ナンバー 261
出演 チェン・ボーリン/トン・ヤオ/トニー・ヤン、モー・ズーイー/ジャネル・ツァイ/テレサ・チー
批評 ネタばれ注意! 結末に触れています


プレッシャーに耐えきれなくなり突然すべてを投げ出した女は、都会での生活に未練もあり、自分を探し出してくれることを願っている。小さな町で暮らす男は、人々に愛され、そこが自分の居場所と決めて生きている。そんな波長の違う世界の男女が出会い、お互い己にないものを相手に発見し、惹かれあう。その気持ちが単なる好意なのかそれとも恋なのか、はっきりと確かめることなくふたりは距離を縮めていく。台湾の豊かな人情を背景に、まだ人生の機微がわからない若者が人の心の繊細さと複雑さに気付く過程で、自分を捨てた母親の心情に思いをはせていく。


歌手のメイは声が出なくなりマネージャーのもとから失踪する。電車を降りたのは山間の小さな駅、そこでモウというなんでも屋の青年と知り合い、徐々に声を取り戻していく。そんな時、新聞記者がメイの消息を追って町にやってくる。


メイはプロデューサーのレイに依存していて、彼の期待にこたえられない自分が情けなくて姿を隠したのだ。モウに世話になっときも身分を偽らないし、町の食堂で働きだしたときも、客に歌手だと紹介されて嫌な顔をしない。あえて足跡を記すことでレイに手掛かりを残す。メイにとって今回の「失踪」は完全に歌手をやめたいのではなく、自信を取り戻すまでの一時的な休養なのだ。このあたり、いまだ自分の進むべき道に迷っているメイの揺れ動く微妙な胸の内が、取り留めのない彼女の言動から垣間見える演出が素晴らしい。


メイの本心に鈍感なモウは、彼女のために濃やかな気遣いを見せ、なんとか彼女を立ち直らせようとする。当然その先には彼女を恋人にしようという目算があったが、声が戻ったメイをレイが迎えにきたことであっさり当てが外れる。女が男の前から消えるのは、男に見つけてほしいから。どれだけ必死で探してくれるかで愛の深さを測っている。その女心を知ったモウは幼い時に自分を捨て失踪した母を探しに出る。だが、男女の愛と母子の愛は根本的に質が違うはずで、母はモウが捜しに来ることなど予想していないと思うのだが。願いをかけられた気球が天に昇っていくのは、いまだモウの思いが届いていないということなのだろう。。。