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映画ライター・福本ジローによる、ハリウッドの大作から日本映画の小品までスポットを当てる新作映画専門批評サイト。

ブラック会社に勤めてるんだが、もう俺は限界かもしれない

otello2009-11-24

ブラック会社に勤めてるんだが、もう俺は限界かもしれない

ポイント ★★
監督 佐藤祐市
ナンバー 277
出演 小池徹平/マイコ/田中圭/品川祐/池田鉄洋/中村靖日/千葉雅子/田辺誠一
批評 ネタばれ注意! 結末に触れています


入社初日からいきなり深夜まで残業、手当てなど当然出ない。中卒・引きこもり・ニートという就職氷河期における三重苦を背負った青年がやっと見つけた正社員の働き口。そこは、長引く不況で人件費が削減され、異常に劣悪な環境で働かざるを得ない、地獄のような会社だった。物語はそんな職場でも己を見失わず、なんとか今までの人生から脱却しようと奮闘する主人公の姿を通じ、働くこと・頑張ること・最後までやり遂げることの意味を問う。しかし、軍隊や「三国志」といったデフォルメされた彼の心象風景がいちいち押し付けがましくて興を殺ぐ。


一応プログラマの資格だけは持っているマ男は下請けIT企業に就職する。労働条件の悪さに何度も退職を考えるが、母との約束を守るために踏みとどまる。ある日、プロジェクトリーダーを任されたマ男は見事その重責を果たすが、手柄は先輩に持って行かれる。


社員数人の小さな企業でよくもこれだけ非常識な人間が集まったかと思えるほど、先輩社員は不思議な人ばかり。もちろんマ男がBBSに自分で作ったスレッドに書き込んだ妄想と誇張の入り交じったキャラクターを具象化しているのだが、いくらネット発とはいえあまりにもステレオタイプでリアリティに欠ける。リーダーは怒鳴り散らすばかりの暴君、ガンダムおたくの井出は無責任なお調子者、激務で神経症になった腋臭男の上原に、なぜか藤田という男だけは聖人のよう。ところが、彼らの過剰な言動にユーモアのあるオチが用意されているわけでもなく、コメディとしても中途半端なもどかしさを感じてしまう。


やがて新入社員が受注してきた仕事のせいでさらなる徹夜勤務が続き、とうとうマ男は精神的にも肉体的にも力尽きる。さらに尊敬しているフジタの退社も重なって、おとなしい彼がついにキレてしまう。だが、一度やめたはずなのに次のシーンではオフィスに戻っており、変心のきっかけを省略したのはなぜなのだ。そこで、崖っぷちに立った彼の人間的な成長を描くべきなのではないだろうか。最後にマ男が、「まだ俺は頑張れるかもしれない」と前向きな姿勢に変わったのは後味が良かったが。。。