ランニング・オン・エンプティ
ポイント ★★★
監督 佐向大
ナンバー 287
出演 小林且弥/みひろ/大西伸満/杉山彦々/伊達建二
批評 ネタばれ注意! 結末に触れています
だらしなく散らかった部屋で痴話げんかを始める男と女。その言葉には知性や教養のみならず、覇気もまったくない。ただ有り余る時間を消費している典型的なフリーターカップルだ。男は一応バンドでプロを目指しているがそれは世間体にすぎず、女はそんな男に振り回されている。何をやっても中途半端なのに言い訳だけは達者な若者のあまりにもジコチューで行き当たりばったりな行動、そこには人間の弱さと愚かさと優しさが凝縮されていて、まったりとした語り口は奇妙なおかしさと共感を呼ぶ。
同棲中のヒデジに愛想を尽かしたアザミは祐一のアパートに転がり込み、貸した金を取り返すために狂言誘拐を計画・実行する。しかし、ヒデジにあわてる気配はなく、アザミの腕時計を質入れしてしまう。
アザミの周囲はヒデジ以外も情けない男ばかり。アザミに協力するナベはヒデジの様子を見に行って逆に1000円たかられるし、ヒデジのバンド仲間は2人ともアザミに粉をかけられてその気になっている。唯一インテリ風の祐一も足が悪くどこかひねくれている。当然アザミも難しいことを考えられるほど頭は良くない。上昇志向もないかわりに危機感もまったくなく、そろいもそろって間抜けな登場人物の無気力な方向性が、希望に乏しい不景気な今という時代を象徴している。
やがて、祐一・ヒデジ・アザミの関係が明らかになっていく過程で、本来ならば物語は緊迫感を増していくはずなのだが、ここでも肩透かしを食らわす。お互い再婚だった両親の連れ子同士で、兄妹だけれど祐一・ヒデジとアザミは非血縁。ヒデジにアザミを取られた祐一の屈折した感情が描かれるが、それも家族だからこその愛憎や深い苦悩・葛藤にまで昇華されたものではない。おそらくヒデジとアザミは10代のころから屈託なく性的交渉を持ち、祐一は苦々しく思いながらも何もできずにいたのだろう。アザミやヒデジの甘えた人生が活き活きとしていただけに、祐一の閉塞感をもう少し突っ込んでほしかった。