インビクタス/負けざる者たち INVICTUS
ポイント ★★★*
監督 クリント・イーストウッド
ナンバー 298
出演 マット・デイモン/モーガン・フリーマン
批評 ネタばれ注意! 結末に触れています
手入れの行き届いた芝のグラウンドでラグビーの練習をする白人、道路一本隔てた石ころだらけの空き地では黒人少年たちがサッカーに興じる。その境界の道路を釈放されたマンデラが乗る自動車が走りぬける。まだアパルトヘイトの名残りある南アフリカが新しい時代に向かってスタートを切る象徴的なシーンだ。やがてマンデラは人種の入り混じった国を一つにまとめるためラグビーW杯を利用する。映画は、イーストウッドが近年描いてきた愛や苦悩といった個人的な感情の機微より、新国家建設という壮大な目的に命をかけた男のゆるぎなき人間像に迫る。
大統領に就任したマンデラは肌の色に関係なく官僚を登用するが、異人種間のしこりはなかなか消えない。折しも1年後に迫ったラグビーW杯の自国開催を人種・民族和合のチャンスととらえ、ナショナルチームの主将・フランソワにW杯優勝を命じる。
マンデラは誰よりも激務をこなすがいつも穏やかな話し方を崩さない。その大いなる知性と寛容の精神にリベラルな白人は理解を示していく。フランソワは白人の代表としてマンデラの意をくみ、白人チームメイトから偏見を取りのぞいていくのみならず、自らも黒人メイドのために観戦チケットを用意することで範を垂れる。彼の気持ちは人種を問わず人々の間に広がり、いつしかチームは国家統合のシンボルとなっていく。理性を信じ、人は変われることに疑いを持たないマンデラの心の広さが代表チームの奮闘を促し、巨大なうねりとなってスタジアムを埋める大観衆だけでなく全南ア国民を飲み込んでいく様子は圧巻だ。
W杯決勝のニュージーランド戦、試合開始前はオールブラックスに対する声援の方が大きい。しかし、実力差を気迫でカバーする南アチームの健闘で試合は同点のまま延長戦に入るうちにあらゆる敵意は霧消する。100キロを超す大男たちが肉弾相撃ちながら楕円球を奪い合うゲーム場面は、縦横無尽のカメラワークで迫力満点だった。ただ、満員の観客席から「オーレ、オレオレオレ」の大合唱が聞こえてくるが、南アではサッカー以外の競技でもこの歌を口ずさむのだろうか。。。