こんな映画は見ちゃいけない!

映画ライター・福本ジローによる、ハリウッドの大作から日本映画の小品までスポットを当てる新作映画専門批評サイト。

彼岸島

otello2010-01-12

彼岸島


ポイント ★★
監督 キム・テギュン
ナンバー 8
出演 石黒英雄/渡辺大/水川あさみ/山本耕史
批評 ネタばれ注意! 結末に触れています


寒色系に抑えられた映像の中、血の色が鮮やかな色彩を帯びる。首筋にかみついた牙から滴る血、剣先がかすめた腕からにじみ出す血、ぶった斬った胴体からほとばしる血。血こそが人間の証明であるかのように赤い痕跡をスクリーンに焼きつけていく。吸血鬼に支配された地図にない島に、行方不明の兄を探しにやってきた高校生がたどる凄惨な戦いを通じて、兄弟の思いと友情の大切さを描く。だが、ハンディカメラを多用した移動シーンや戦闘シーンは、その場にいるような躍動感や緊張感を観客に体験させる狙いなのは理解できるが、画面が激しく揺れて見づらい。それを補う効果音もやたら耳障りで、感覚を過剰に刺激するだけに終わってしまった。


高校生の明のもとに玲という女が現れ、突然消息を絶った兄・篤の生存を伝える。篤を救うために、明は玲の導きで友人たちとともに彼岸島に上陸するが、早速吸血鬼たちに捕らえられてしまう。


捕虜となった明たち6人のうちからいけにえにする1人を選べと吸血鬼に告げられた時、ポンといういちばん気弱な少年を差し出そうとする。そこからエゴ丸出しのサバイバルが始まるのかと期待したが、リーダー格のケンちゃんの自己犠牲で収まってしまう。このあたり、自分が生き残りたいがために仲間を売るやつがいてお互いが疑心暗鬼になったりするなどの、極限状態での人間の真実がもっと描きこまれていれば物語に深みが出たのに、終始明の甘っちょろいヒューマニズムが前面に押し出され、斬劇アクションとしても中途半端になってしまった。


やがて篤の活躍と、島に潜む人間のレジスタンス軍の一斉蜂起で吸血鬼との戦争の火ぶたが切って落とされる。その殺陣も、暗い画面と細かいカット割りの編集で肝心なところが巧みに隠され迫力に乏しい。これでは見せないことで想像力に訴えようというより、最初から俳優の技量や表現力の低さをごまかす手抜きに感じてしまう。唯一吸血鬼の首領・雅の白い顔に光る赤い目が強烈な異彩を放っていた。