こんな映画は見ちゃいけない!

映画ライター・福本ジローによる、ハリウッドの大作から日本映画の小品までスポットを当てる新作映画専門批評サイト。

シェルター

otello2010-01-15

シェルター SHELTER

ポイント ★★
監督 マンス・マーリンド/ビョルン・ステイン
出演 ジュリアン・ムーア/ジョナサン・リス・マイヤーズ/ジェフリー・デマン
ナンバー 11
批評 ネタばれ注意! 結末に触れています


多重人格は犯罪者が罪を軽くするための演技、そう断罪する女医が遭遇した信じがたい男は二つの人格が完璧に別れている。それは内面的な特徴だけでなく、肉体的な疾患までもが人格によって変化する特異なもの。そんな超自然現象を目の当たりにしたヒロインが彼の秘められた謎を解き明かす過程で、驚愕の過去に突き当たる。心霊かトリックか、科学で解明できない出来事はいったいなぜ起きるのかを探る彼女が、やがて怨念の渦に巻き込まれていく。


精神科医のカーラはデヴィッドという患者を紹介される。温和だったデヴィッドは突然アダムという粗暴な人格と入れ替わる。興味を抱いたカーラはデヴィッドの身辺を洗うと20年以上前に本物は死んでいたが、デヴィッドの母親に会わせるとふたりだけの秘密を知っていた。


カーラはデヴィッド=アダムの人格のスイッチを理論的に証明しようとする。デヴィッドの持つ記憶が本物なのか、記録をもとにねつ造したものか、真偽を確かめるために調査を重ねる。しかし、デヴィッドにはどこか邪悪な雰囲気が漂い、カーラは心理的に追い詰められていく。医者として様々なタイプの被験者と接した経験から最初はデヴィッドに対しても余裕を見せていたのに、明白になる事実と共に徐々に彼女が未知の恐怖に駆られていく様子が体感的に伝わってくる演出は非常にシャープだった。


だが、デヴィッドに第3の人格が現れる辺りから映画は迷走する。彼の人格はすべて死者のものであることが明らかになり、その起源は100年近く前に殺されたムーア牧師の恨みという強引な展開。多重人格を明確に否定するカーラに、同一人物のはずのデヴィッドとアダムの頚椎のレントゲン写真を見せたあたりからほころび始めた物語は、結局呪術や悪魔信仰もどきと結びつけられた段階で修復不能になり、後半は安手のホラーのようになってしまったのが残念だ。そもそも、ムーア牧師は自分の肉体に他人の魂を記憶ごと取りこんで何をしたかったのだろうか。人間への復讐ならばなにも多重人格を装う必要はないと思うが。。。