こんな映画は見ちゃいけない!

映画ライター・福本ジローによる、ハリウッドの大作から日本映画の小品までスポットを当てる新作映画専門批評サイト。

サロゲート

otello2010-01-25

サロゲート Surrogates

ポイント ★★*
監督 ジョナサン・モストウ
出演 ブルース・ウィリス/ラダ・ミッチェル/ロザムンド・パイク
ナンバー 20
批評 ネタばれ注意! 結末に触れています


細身の長身にサラサラの金髪をなびかせた素肌もツヤツヤのブルース・ウィリスに、不快感にも似た違和感を覚えた。もちろん主人公のアバターだが、外見のみならずなく仕種や表情まで人間そっくりのロボットが、人間の代わりに日常生活を営んでいる社会に対する生理的な嫌悪感に由来する。ロボットを操縦する人間は自宅で横になって、脳波を電気信号に変換して飛ばしコントロールしている。つまり物理的活動をロボットにまかせ、自らは動くことを放棄している。一見平和で豊かになったように見える未来像は、肉体は精神の入れ物にすぎないが、入れ物の働きなしに中身は洗練されない事実を気付かせてくれる。


身代わりロボット・サロゲートが労働を代行するようになった近未来、サロゲートもろとも人間が殺される事件が起きる。FBI捜査官・トムは凶器の電磁波銃を追ううちに、サロゲート使用を反対する人間のみが住む独立区に侵入し、破壊されてしまう。


一応人間はまだロボットの支配者ではあるが、街中を闊歩するのはすべてロボット。彼らを制御する人々は家で息をひそめるようにして生きている。トムもまた息子を交通事故で亡くしてからサロゲート頼りで、顔と心に深い傷を負った妻は部屋から出ようともしない。そこには肉体的な苦痛からは解放されたけれど、愛や思いやり、喜びも苦悩も分かち合うような心のつながりが希薄になり、ただ安穏な死を迎える存在になっている。怒りや悲しみを含めた様々な感情こそが人間である証拠なのに、それを放棄した人々は決して幸福には見えない。


やがて事件の背景にサロゲートごと人間を殺害し、再び人間中心の世界を取り戻そうという陰謀の存在が明らかになり、さらなる殺人が繰り返される。だが、ヒゲ面スキンヘッドの本体のトムが人間くさい捜査で犯人にたどり着き、彼の活躍でサロゲートだけ機能停止にして人間は救うというのは予定調和的で予想がつく結末だった。そもそもの設定に疑問を呈するが、いくらテクノロジーの進化とハイテク企業のもうけ主義が一体化したとしても、こんな暮らしを許容するほど人間の理性は退化していないはずだ。