こんな映画は見ちゃいけない!

映画ライター・福本ジローによる、ハリウッドの大作から日本映画の小品までスポットを当てる新作映画専門批評サイト。

イエロー・ハンカチーフ

otello2010-02-05

イエロー・ハンカチーフ THE YELLOW HANDKERCHIEF

ポイント ★★★
監督 ウダヤン・プラサッド
出演 ウィリアム・ハート/マリア・ベロ/クリスティン・スチュアート/エディ・レッドメイン
ナンバー 29
批評 ネタばれ注意! 結末に触れています


もしかしたらという期待と、やっぱり駄目だろうなというあきらめ。服役を終えたばかりの男は、一通の手紙に願いを託す。誤解と短慮から妻と気まずい別れ方をしたまま長い歳月が経ち、残っているのは後悔だけ。彼女が今も待っているかどうかひとりで確認する勇気を持てず、若いカップルに後押しされる。将来に甘い夢などすでになく、わずかに残った希望だけを頼りに旅を続ける主人公の後ろ姿が印象的だ。過去という十字架を背負ったウィリアム・ハートの寡黙な背中は圧倒的な哀しみをたたえていた。


刑務所を出たブレットは出迎える家族もなくフェリー乗り場に佇んでいると、街のカフェで見かけた若いカップルと知り合う。家出中のマーティーンを遠くに連れ出そうとするゴーディの車にブレットも同乗し、3人は南へ向かう。


ゴーディはどこか落ち着きがなく、必死でマーティーンを口説こうとするがうまくいかない。そんなふたりの危ういやり取りに、ブレットは関心なさそうに距離を取る。それは前科者である事実を知られたくないという気遣いなのだが、苦難の多い人生を送ってきた者だけが持ち得るブレットの人間観察眼は、マーティーンが抱える寂しさと、ゴーディの真面目さも見抜く。旅の途中、世代間の相互不信が相互理解に変わっていく様子は、お互いを認め合ってコミュニケーションを取ることの大切さを教えてくれる。


◆以下 結末に触れています◆


やがて身の上を若いふたりに話したブレットは、妻の家に黄色いヨットの帆が掲げてあれば自分を許してくれている相図だと打ち明ける。それを確かめるのに躊躇するブレットに、今度はふたりが励ましの声をかける。映画は山田洋二作品をほぼ忠実にトレースしているが、最後に来て黄色い帆は見つからない。ところが、妻は帆の代わりに数十もの黄色いタオルやバンダナをロープに結び付けでブレットを迎えるのだ。望んでいた愛と、待ち続けていた幸福。結末はわかりきっていても、やはり胸が熱くなり心が安らぐラストシーンだった。