こんな映画は見ちゃいけない!

映画ライター・福本ジローによる、ハリウッドの大作から日本映画の小品までスポットを当てる新作映画専門批評サイト。

フェーズ6

otello2010-03-10

フェーズ6 CARRIERS

ポイント ★★★
監督 アレックス・パストール/ダビ・パストール
出演 クリス・パイン/ルー・テイラー・プッチ/パイパー・ペラーボ/エミリー・ヴァンキャンプ
ナンバー 56
批評 ネタばれ注意! 結末に触れています


異常な状況では非情な判断が正常な行為とみなされる。そこでは助かる見込みのないものは切り捨てられ、生き残る望みがあるものが次のステップに進むことができる。不治の病原体に侵された人類が向かう未来とは、救世主の登場や偉大なリーダーの活躍によって困難が克服される壮大な物語ではなく、生存本能と良心の狭間で揺れながら、最後には利己的な気持ちが強いものがサバイバルするという無情の世界。ピクニック気分の若者たちが恐怖と怒りと絶望の中で徐々に危機に対して現実的な対処法を身につけていく様子は、人間的な感情を失っていく過程でもあるのだ。


ブライアン、ダニー、ボビー、ケイトの4人はウイルスに汚染された地区を脱出する途中、感染者父娘の車に同乗する。小さな町でワクチンが探すが見つからず、4人は父娘を置き去りにする。しかし、ボビーが娘から感染していた。


リーダー格のブライアンは短慮ながら腕力も行動力もあり、いざという時にはメンバーを守るために銃の使用もためらわない。彼のガールフレンド・ボビーは気は強いが優しい心の持ち主で、それが仇になる。ブライアンは己の権威を守るためにボビーを見捨てるが、自分も感染していたことから弟のダニーに銃を奪われる。もはや恋人同士の愛や兄弟間の愛はそこにはなく、他人との協力や助け合いなどの優しさもない。さらにおとなしく見えるケイトは仲間から感染者を排除するために言葉巧みに多数派工作をおこなう。映画はただひたすら彼らに芽生えるエゴをごく自然な現象のようにとらえる。


感染した子供たちと心中しようとする医師や最期まで娘をひとりにしなかった父親など、まだ少しは愛が残っている人たちもいる。一方で4人の間には嘘と裏切り、そして疑心暗鬼が蔓延し、結局目的のビーチにたどりついても待っているのは孤独だけ。人間性を犠牲にして生きるか、人間性とともに死ぬか、作品は見る者に問いかける。