こんな映画は見ちゃいけない!

映画ライター・福本ジローによる、ハリウッドの大作から日本映画の小品までスポットを当てる新作映画専門批評サイト。

サイタマノラッパー2 〜女子ラッパー☆傷だらけのライム〜

otello2010-05-03

SR2 サイタマノラッパー2 〜女子ラッパー☆傷だらけのライム〜

ポイント ★★★★*
監督 入江悠
出演 山田真歩/安藤サクラ/桜井ふみ/増田久美子/加藤真弓/岩松了
ナンバー 105
批評 ネタばれ注意! 結末に触れています


カッコつけるのではなく、いちばん弱いところダメなところカッコ悪いところを脚韻を踏んだ言葉でさらけ出す。冷静に己を見つめ、客観的に対峙し、「ダサくても一生懸命に生きているんだ」と主張する。思い通りにならないもどかしさと周囲に理解されない不満、そんな日常から脱却しようともがくもはや青春を卒業した女たちの冒険と挫折。映画は彼女たちの魂の叫びを短く刻んだリズムに乗せて解き放つ。セリフにすればクサすぎる思いもラップだとストレートに口にできる、その素直なエネルギーがスクリーンに爆発する。


群馬県の田舎町、こんにゃく工場の娘・アユムは埼玉から来たラッパーとの出会いをきっかけに、高校時代のラップチームの再結成を決心、倒産した旅館の娘・みっつーやソープ嬢のマミら元メンバーに声をかける。


こんにゃくを作って配達する退屈な毎日、アユムは判で押したような生活の中、早世した「伝説のタケダ先輩」の情熱をライブで再現しようとする。資金集めのためにウグイス嬢から水着ショーまでこなすが、目標にはなかなか手が届かない。その過程で、日々汗を流すアユムが生き生きとした表情を取り戻し、話す言葉がラップ調になっていく様子が笑える。特に選挙カーで、立候補者の名前や公約までラップ調に変わっていく場面は、思わず客席でリズムを取ってしまうほどの楽しさに満ち溢れていた。


◆以下 結末に触れています◆


しかし、簡単に夢が叶うほど現実は甘いはずはなく、マミは妊娠しみっつーは姿をくらます。さらに、傷心のアユムは母親の三回忌で集まった親戚・知人の前で「ラップをやれ」とあおられる始末。母親の年代の人々の前でアユムは冴えない人生のすべてを吐き出す。そこに、墓参に来たマミとみっつーも加わって、彼女たちはそれなりに精いっぱい頑張っていることをライムに託すのだ。会場も小さく聴衆もヒップホップの精神をまったく理解しないおっさんたち、目指していたゴールとはベクトルがかなりずれている。だが、この10分近くにもなる長回しのクライマックスで、とにかく自分を表現することには成功したと、アユムはある種の達成感を得たのではないだろうか。予定調和的なハッピーエンドとは程遠い、それでも彼女の伝えようとした気持ちが少しだけ父親に通じたラストシーンは圧倒的なカタルシスを覚えた。